勝ち点剥奪と2チーム制の弊害 スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(17)

木村浩嗣

ルールのせいで子供たちのプレー機会が奪われる

Aチームの数少ない写真。対象の遠さが子供たちの距離感を物語っているとは思いたくない。よりフィジカルなチームで尻上がりに調子を上げた 【木村浩嗣】

 この特別ルールの目的は、なるべく多くの子供たちをプレーさせようという教育的配慮なのだが、このルールのせいで試合が成立せず、子供たちのプレー機会が奪われるという結果となっている。「法の精神」という言葉があるが、法の精神(法の目的)を現実の法が裏切っているのである。多くの子供たちをプレーさせようという法の精神は間違っていない、現実の法が不備なのだ。

 たとえば、残業を減らす目的で作られた月間の残業時間数の制限が、現実にはタイムカードを押してから居残ったり、家に仕事を持ち帰ったりするタダ残業を増加させた、というのは、法の精神は正しくとも、法とその適用の仕方が間違っているのである。

 悪法は問題解決どころか悪化させることにしかならない。子供たちのプレー機会を増やしたいなら、「すべての子供たちがプレーしなければならない」というルールを設けるだけで十分ではないか。これならベンチに交代要員が2人いるのに失格という、子供のプレー機会を奪う“愚”を回避できる。

 Aチームの試合前日は人数の確保が大変だった。招集メンバーを発表する日の練習に来なかった子の親に連絡して「明日の試合に来られるか?」と尋ね、「人数が足りないと失格になる」と説得せねばならない。説得に成功して得られるものは、失格にならない代わりに、その週1度も練習に来ていない子が試合に出る、というチームのモラルを下げかねない不健全な状態である。

 もう10年以上スペインで少年チームの指導をしているが、「試合に来てください」と監督が頼むなんて前代未聞。これでは愛の鞭どころではない。みんなが試合に出られて親も子も満足という平等で公平な2チーム制のはずが、練習に来なくても試合に出られるという悪平等を招くことになった。これもまた制度が制度の精神を裏切っているのだ。

 4月からカップ戦がスタートする。春のセビージャは“セマナサンタ(聖週間)”や“ラ・フェリア(春祭り)”など祭日が多いので、ホーム&アウェーではなく、1試合総当たりの短期決戦になるはずだ。2チーム制は維持するが、AとBをもう一度ミックスし、最低10人を確保できるように再編成して参加することにした。まずは失格を回避すること、スポーツ的目標はその後だ。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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