青木はイチローになれるのか――3連勝・日本の今後のカギを握る存在

中島大輔

中国戦は2次ラウンドに備えて休養

中国戦は出場機会がなかった青木(写真左から3人目)。ここまで8打数1安打と結果は今ひとつも、小久保監督の期待通りチームリーダーとしての役割を果たしている 【写真は共同】

 3月10日正午開始の試合でキューバがオーストラリアを下し、野球日本代表「侍ジャパン」はその時点で第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)1次ラウンドの首位通過を決めた。同日夜に行われる中国戦は結果より、2次ラウンド以降に向けて内容が問われるところだった。

「今日はなしで……」

 中国を7対1と危なげなく下して3連勝を飾った試合後、ミックスゾーンで青木宣親はそう言い残して立ち去った。

 この日スタメンから外れた青木に対し、聞きたいことがたくさんあった。初戦の初打席でヒットを放って以降無安打だが、状態はどうか。4番・筒香嘉智の前を打つ役割をどう考えているか。3月2日に合流して以来、チームの変化をどう見ているか。若いチームを乗せるべく、どんな役割を心がけているか。そして、第1、2回大会でチームを優勝まで導いたイチローのような存在になることができると思うか――。

「帰国してから、ずっとトップで(調整を)やってくれていました。しかも休養日を含めて強制練習でやっていたので、明後日からに向けて、こっちから『今日は休め』ということでした」

 中国戦で起用しなかった理由について、小久保裕紀監督はそう説明している。打席に立たせて状態を上げさせるのではなく、休養して12日の2次ラウンド初戦に備えさせるという判断だ。

チームリーダーとしての言葉の重み

積極的に選手に声をかける青木。メジャーの舞台で戦っているからこそ言葉に重みや説得力がある(写真はオーストラリア戦後に勝利を喜ぶ青木ら外野陣) 【写真は共同】

 相手との実力差があった1次ラウンドとは異なり、2次ラウンドでは実力の拮抗した戦いになる。しかも初戦は、ベスト4に入った前回大会より戦力的に厚くなっているオランダだ。今大会で最初の山場を迎えることになる。

「オランダはメジャーリーガーばかりです。そういうなかで、彼(青木)がメジャーリーガーとしてベンチにいることは正直、心強いですね」

 本番前の最後の実戦機会となった5日のオリックス戦では1回裏に2点を先制され、ベンチに暗いムードが漂うと、2回表の攻撃の前に青木が選手たちを集めた。

「本番でもこういう戦いになる。まだ攻撃が後8回ある」

 その叱咤で顔を上げたチームは、直後に逆転を果たした。WBC本番が始まっても青木の果たしている役割は大きいと、小久保監督は感じている。

「ベンチでの振る舞いもそうですけど、存在感がありますね。打てなかった選手へのベンチでの声かけを含めて、チームが締まったなという感じがします」

 WBC優勝経験者であり、メジャーの舞台で戦っているからこそ言葉に重みや説得力がある。青木はチームリーダーとしての役割をここまで十分に果たしている。

勝敗を左右する場面での一打を期待

初戦キューバ戦の初回、青木の二塁打が先制点を呼び込んだ。ただ、2試合で安打はこの1本のみ 【写真は共同】

 ただし、第1、2回大会におけるイチローのような存在になるには、さらに求められるものがある。勝負を決めるような活躍だ。

 実力伯仲する2次ラウンド以降は、一発勝負のように1勝の重みが大きくなる。その初戦で激突するオランダは大会屈指の打力を誇り、福岡ソフトバンクの最強右腕バンデンハークの先発が予想されるなか、戦い方をたずねると指揮官は真っ先にこう言った。

「ある程度、点を取らないといけないと思います」

 2月23日に始まった宮崎合宿の序盤からクリーンアップを3番・坂本勇人、4番・筒香嘉智、5番・中田翔で固定すると明言してきた小久保監督だが、WBCでは初戦からその形を崩した。状態を上げてきた山田哲人を1番で起用することと、チームのカギを握る一人の青木に3番を任せようと判断したことが大きな理由として挙げられる。

 青木は2試合で8打数1安打ながら、初戦では先制点の口火となるレフトへの二塁打を放ち、続くオーストラリア戦では2対1で迎えた8回2死の第4打席で2ストライクと追い込まれたところから四球を選んで筒香の2ランにつなげるなど、勝利につながる働きを見せている。

 しかし3番打者として考えると、現在の成績では物足りない。1次ラウンド以上に攻撃力を高めることを考えると、抜群のリーダーシップを発揮している青木のコンディションが上向き、勝敗を左右するような場面で打てるかが今後のポイントになりそうだ。第2回大会序盤で沈黙しながら、最後の最後で勝利をもたらせたイチローのように――。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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