バルセロナに見られるプレーモデルの欠如 張り詰めた空気に包まれたカンプノウ

レガネス戦後、選手や監督にはブーイングが

PKを決めたメッシは喜ぶこともせず、カンプノウは終始張り詰めた空気に包まれていた 【Getty Images】

 終了間際にリオネル・メッシが決めたPKによって2−1と辛勝したレガネス戦では、危機の始まりを感じさせる兆候があらゆる形で表れていた。それがまだ兆候にとどまっているのは、3月8日にカンプノウで行われるPSGとのセカンドレグにおける逆転の可能性がわずかながらも残っているからだ。とはいえ、このレベルで4点差を覆すのが実質的に不可能であることは、誰もが認めるところだろう。

 今季のリーガでは最低の観客動員数(6万3378人)にとどまったこの日、カンプノウは終始張り詰めた空気に包まれていた。

 アンドレ・ゴメスがピッチを去る際には厳しいブーイングが浴びせられた。ゴール裏の応援団がルイス・エンリケをたたえるコールを発すると、その声はその他の観衆による口笛でかき消された。試合後ルイス・エンリケは「自分へのブーイングについては理解できる」と話していたが、この試合で好守を連発したマルク・アンドレ・テアシュテーゲンは「理解できない。ファンはチームを後押しするべきだ」と異なる意見を口にしている。

 何よりこの日のバルセロナを象徴していたのは、2位の座を死守した重要な決勝点を決めたにもかかわらず、メッシが表情ひとつ変えなかったことだ。

 あらためてここに記しておく。今のバルセロナにはクラブの歴史にふさわしいレベルの選手が15人ほどしかいない。最終ラインでは2人のゴールキーパーと4人のセンターバック、ジョルディ・アルバ。セルジ・ロベルトは本職のMFとして数え、他に中盤ではセルヒオ・ブスケッツとアンドレス・イニエスタ、そして現在は本調子とは程遠い状態にあるイバン・ラキティッチ。前線ではアルダ・トゥランとメッシ、ネイマール、ルイス・スアレスの南米人トリオだ。

 彼ら以外はみな、執行部が判断を誤って補強した選手たちばかり。クラブはアレクシス・サンチェスやチアゴ・アルカンタラを筆頭に、選手の放出においても間違った決断を下してきた。

 しかしながら、最も深刻な問題は先にも触れたプレーモデルの欠如にある。エクセレントな選手を何人擁していようと、チームとしてベースとなるプレーモデルを構築せぬまま勝ち続けることは不可能だからだ。

ルイス・エンリケ体制が終わりを迎える?

ルイス・エンリケはスター選手たちをうまくまとめたものの、個々のタレント以上のパフォーマンスを引き出すことはできなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 早くもサイクルの終焉(しゅうえん)を宣言する声も聞こえているが、それは極端すぎる意見だろう。チームのサイクルは選手を中心に回るものであり、バルセロナには今後も中心を担い続けるべき選手が何人もいる。彼らのサポート体制を改善することは可能だし、監督交代によってプレーの幅を広げることもできるはずだ。もちろん全ては世界中から賞賛されるようになったクラブ哲学を遵守した上での話である。

 つまりは、現在のルイス・エンリケ体制が終わりを迎えたということなのだ。この2シーズン半、彼は経験豊富なスター選手たちをうまくまとめてきたものの、チームとして個々のタレント以上のパフォーマンスを引き出すことはできなかった。

 既存の選手たちはモチベーションを新たにし、チームとして数年前のプレーレベルを取り戻さなければならない。そのためにはルイス・エンリケとは異なるタイプの、異なる戦術やモチベート方法を用いる監督が必要になる。右サイドの補強も必須だ。またどれだけ飛び抜けた存在だとしても数人の選手に全てを依存することなく、誰が出ても質の高いプレーができるよう、バックアップメンバーを充実させることも重要だ。

 相手ゴール前から仕掛けるプレッシングの機能性まで失いつつある現在のバルセロナは、もう数年前から力を失い続けてきた。おそらく彼らは、今季の自分たちがこれ以上の力を出すことができないと自覚しているのではないだろうか。

 カンプノウのスタンドに座る人々は、こうしたチームの現状を全て察知している。選手たちの精神状態はピッチからスタンドへと伝わるものであり、バルセロナのそれはあまりにも顕著に見て取れるのだから。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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