J2を盛り上げるために必要なことは? 本音で語らうJリーグ 佐藤寿人編

宇都宮徹壱

名古屋が本来のポテンシャルを発揮するために

風間新監督の下、新生グランパスの船出は「順調」と佐藤。開幕に向け手応えを感じているようだ 【写真は共同】

――名古屋に話を戻します。キャンプの模様は寿人選手のブログでも拝見しましたけれど、だいぶ手応えは感じているようですね。

佐藤 選手が多く入れ替わる中、風間監督の下で新生グランパスとしての船出は、今のところ順調だと思います。僕自身が感じるのは、選手がすごく楽しんでサッカーをやっているということ。そこは、監督がこの短期間で(目指すサッカーを)落とし込んでくれたことが大きいかなと感じますね。一方で監督からは「自分のことをしっかりやってほしい」と言われました。まずはひとりの選手として、自分のプレーをしっかり示していくことを心掛けたいと思います。

――なるほど。それにしても、今日のキックオフカンファレンスでも感じたのですが、われわれ取材する側も頭では分かっていても、やっぱり名古屋がJ2にいることにある種の違和感を禁じ得ません。その点についてチェアマンはいかがでしょうか?

村井 いわゆる経営規模、クラブの収入規模からしたら、名古屋は広島よりも大きいですよね。でもJ2には、大きな責任企業がサポートしているクラブがけっこうあります。京都(サンガF.C.)は京セラ、ジェフ千葉はJR東日本、そして名古屋はトヨタ。スタジアムも、千葉にはフクアリ(フクダ電子アリーナ)があるし、名古屋にはパロマ瑞穂スタジアムだけではなく、豊田スタジアムもある。京都は亀岡市に新しいスタジアムを建設中です。

 そういう安定した財政支援、スタジアム、練習環境が充実しているクラブであっても、本来のポテンシャルをなかなか発揮できないという現実がある。逆に広島のように、財源も環境もハンディはあるけれど、フロントとスタッフと選手が一枚岩になることで、足りないものを克服しているケースもある。

佐藤 僕が名古屋に来てみて感じるのは、とても大きな都市だなということです。でも大きいからこそ、ホームタウンとしての一体感を作っていく難しさもあると思うんです。そこは自分がいた広島との一番の違いだと感じました。今回、クラブはJ2に降格してしまいましたけれど、こういう時だからこそ前向きにいろんなことを変えていけるチャンスではないかと思うんです。そのひとつに、選手なりクラブなりが、もっと地元との距離感を縮めていく良い機会ととらえていくことも、可能なのではないでしょうか。

村井 僕が興味深く見ているのは、風間監督と寿人選手が来たことで、名古屋がどのように本来のポテンシャルを発揮できるかというところなんです。それはピッチ上だけの話ではなく、たとえばホームタウン活動やスポンサーや行政なんかに風間さんや寿人選手が出向いていって「ワンチーム」を作っていく。クラブ全体やホームタウンも含めて「熱いエリアに変えてしまおうぜ」というのをみんなでやっていってもらう。そういうチャレンジをぜひやってほしいと思うし、それができたら名古屋は非常に強いチームになると思うんです。

「選手側も積極的に発信していくことが必要」

ゼロックス杯でスポンサーの看板に駆け寄りゴールパフォーマンスを見せる広島の選手たち 【写真:アフロスポーツ】

――そこで、あらためてJ2というカテゴリーについて考えたいと思います。寿人選手はこれまで、セレッソ大阪(02年)、ベガルタ仙台(04年)、そして広島(08年)でJ2を経験しています。今回は9年ぶりにこのカテゴリーでプレーするわけですが、かつてのJ2と比べてどのあたりに違いを感じていますか?

佐藤 決定的に違うのは、レギュレーションですね。僕が最後にJ2でプレーした08年は、まだJ3がなかったから降格もないし、J1昇格プレーオフもありませんでした。でも、プレーオフで6位のチームにまでチャンスが広がり、J1ライセンスを持つクラブも増えてきたので、そうした面でもJ2を戦い抜く難しさというのはあると思います。

村井 J2って、世界でも屈指の面白いリーグだと私は思うんですよ。今ちょっと見ているんですが(とスマホでチェックしながら)22クラブあるうち、J1を経験しているのは11クラブ。つまり半分のクラブが昇格というか、トップリーグへの復帰を目指している。言い方を変えると、J2の半分のクラブがJ1のヒストリーを持っているし、どこがJ1に昇格してもおかしくない。これは世界的に見てもめずらしいリーグだと思います。

――今のJ2には日本代表のキャリアをもつ選手や元Jリーガーの監督もたくさんいて、そういう意味でも面白いですよね。

佐藤 名古屋のチームメートでいえば、楢崎(正剛)さんや玉田(圭司)さんといったワールドカップも経験している元代表がいますからね。もっと掘り下げるとJ3にも、(川口)能活さんがいたり、明神(智和)さんがいたりする。そういう選手主体で試合を見に行くという楽しみ方があってもいいと思います。

――J2を盛り上げるということに関して、チェアマンから何かアイデアはありますか?

村井 いや、もう十分に盛り上がっていますから(笑)、特別に何かやる必要はないと思います。ただ、今季からDAZNの中継が始まって、中継制作を全てJリーグが受け持ちます。そこで、たとえば選手バスが到着したところで監督がインタビューを受けたり、時には試合開始直前のロッカールームにカメラが入ったりなど、いろいろなことができるようになる。ですから、選手の方からも、引っ込み思案にならずにもっと積極的に出てきてほしい。寿人選手もどんどん、そのあたりのところで他の選手を引っ張ってほしいですね。

佐藤 広島でゼロックス・スーパーカップに出場したとき、ゴールが決まったらみんなでゼロックスさんの看板まで駆け寄ってゴールパフォーマンスをしたことがあります。やっぱりスポンサーに対しても、「Jリーグを応援して良かったな」とか「一緒にサッカー文化を作り上げて良かったな」と言ってもらえるように、僕ら選手の側も積極的に発信していくという責任を持つ必要があると思います。

村井 一昨年のチャンピオンシップ(CS)で広島が優勝したとき、森保監督が「明治安田生命JリーグCS、優勝できました!」と言ってくれて、スポンサーに大変喜ばれました(笑)。そのあたりの意識改革も含めて、各クラブが変わっていければ、J2ももっと表に出ていける気がします。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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