明確な方針でステップアップ スマイルJが向かう“理想的な到達地点”

高野祐太

韓国戦は消化不良も2連勝でスタート

韓国を下し、冬季アジア大会2連勝スタートとなったスマイルJ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「1対1で競り合うプレーを高めていかなければ、世界のトップ8では戦えない」――。

 自力では初めて五輪の舞台をつかんだ2014年ソチ大会、5戦全敗に終わった後にアイスホッケー女子日本代表「スマイルジャパン」の飯塚祐司監督が語った言葉がしみじみと思い出される。

 2大会連続の五輪切符をつい1週間前に手にし(世界最終予選1位)、これまでの挑戦を振り返ると、あのとき渇望した意欲的なプレースタイルこそが10年バンクーバー五輪を目指してスタートした飯塚監督時代、そして現在の山中武司体制へと続く模索の“理想的な到達地点”を表しているのだろうと思えるからだ。

 現在開催中の札幌冬季アジア大会(6チームによる総当たり戦)では、20日までの2試合で世界ランク7位の日本が、同18位のカザフスタン(6−0)、同23位の韓国(3−0)に2連勝。平昌五輪でもぶつかる韓国戦は攻め切れない消化不良の内容で、「頑張れば勝てるかもしれないと相手に思わせてしまった」(大澤ちほ主将)、「日本と同じようなスピード型のチームに強化されつつある」(山中監督)と試合を振り返ったが、ひとまずは来年への足がかりは得た。

 ほかには16位の中国(25日対戦)もいるが、いずれも日本からすれば格下であり、「無失点、全勝、金メダル」(山中監督)を達成することは譲れない目標となる。考えるべきは、ソチ五輪からここまでの道筋の確認と、来年の大舞台で世界上位国に対してなすべき課題だ。

体格差を埋めるべく採られた強化方針

飯塚時代からフィジカルトレーニングを徹底して強化してきた。写真は小野粧子(中央) 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 勝利という果実は手にできなかったソチ五輪だが、世界最高峰の空気を吸った経験は大きかった。SEIBUプリンセスラビッツの監督でもある日本アイスホッケー連盟の八反田孝行強化副委員長がこう指摘する。
「ソチ以降、どこが欠けていて、どこを鍛えれば強いチームと対等に戦えるか、やるべきことが明確になっている。以前と違って、強い相手をリスペクトし過ぎず、カナダと米国という2大最強国に続くフィンランド、スウェーデン、ロシアなどは射程範囲内だという実感も生まれています」

 それは、ソチ挑戦の時点で掲げていた「世界最終予選を戦わずに、ストレートで五輪出場権が得られる世界ランク上位」という高い目標にも直結する手応えだと言える。

 ところが、昨年4月に難しい局面が訪れる。

 世界選手権トップディビジョン(1部相当)で5戦全敗し、2部のディビジョンIに降格してしまったのだ。見失ったリズムの立て直しを託されたのが山中監督だった。

“氷上の格闘技”と呼ばれるアイスホッケーにおいて、欧米勢に体格で劣る日本は、その動かし難い不利を別の何かで補わなければ勝てない。そこでDF出身の山中監督は、鉄壁の守備によって活路を見いだす方針を鮮明にした。最小限の失点に抑えられるとの計算から、1試合に相手に打たせてよいシュート数は15本という目標を設定するなど、具体的な指針で強化を進めた。

 この守備強化の成果について、世界最終予選のテレビ中継解説も担った八反田強化副委員長は「しっかり守る=シュートを打たせない=どう動いたらいいかという動きの目標を決めている。最終予選ではそこの組み立てがうまくできていた」と分析する。

 攻撃面でも体格差を埋められる速いパス回しを磨いた。八反田強化副委員長も「パスワークも以前よりもどんどん速く正確に回るようになっているので、体格の劣る分を補うプレーになっている」と目を見張る。

 加えて、競り負けないスピード、試合後半にも運動量が落ちない持久力、当たり負けしないパワーを身につけるべく、飯塚時代から強化してきたフィジカルトレーニングを徹底した。世界屈指の米国選手のデータを指標に、高い目標値を選手に課した。

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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