2年目に臨む金本阪神の目玉・糸井嘉男 若虎の成長を促す“大きな傘”と解釈
関西メディアは連日糸井を報道
FA移籍で阪神に入団した糸井。関西では連日糸井の動向が報道されている 【写真は共同】
そんな金本阪神の2年目を語るうえで最大の目玉は、なんといってもオリックスからFA移籍してきた大物外野手・糸井嘉男だろう。春季キャンプ前の今の時期というのは、どうしても新戦力に注目が集まるものだが、それにしても関西の野球マスコミにおける糸井フィーバーはすごい。阪神びいきがお家芸のデイリースポーツはもちろん、他のスポーツ紙でも関西版では連日のように糸井の動向が報じられ、さらに在阪放送局によるテレビやラジオでは一般の情報バラエティー番組(関西ローカル)などであっても、高い頻度で糸井ネタが扱われている。オリックスと阪神は同じ関西の球団であり、言わば糸井は近場に移籍しただけなのだが、そのメディア露出量は雲泥の差だ。
ちなみに、「地上波テレビがプロ野球から撤退した」と叫ばれて久しい昨今だが、大阪と東京を行き来する生活を送っている私としては、その通説に疑問を感じている。確かに東京の地上波テレビは野球離れしているものの、かたや大阪の地上波テレビは現在も阪神情報を盛んに扱っている。むしろ全国ネットの巨人情報が昔より届かなくなったぶん、阪神濃度がより増した印象がある。その一方でオリックスの露出が少ないところも、昔の阪急や南海、近鉄の扱いと遜色ない。これは福岡ソフトバンクや広島など、他の地域密着型球団でも同じだろう。いわゆるローカルテレビ局にとっては、おらが町のプロ野球球団は今も立派な地上波コンテンツなのである。
その一方で、東京の球団は地元テレビ局がそのまま全国ネット中心のキー局となってしまうため(UHF局はあるものの)、東京だけに特化したローカルなプロ野球情報を地上波コンテンツとして扱いにくい。特に巨人は皮肉な話である。かつては日本テレビという関連会社がキー局であることを活用して全国に情報を発信できたわけだが、今はそれがキー局であるがために、地域密着情報の発信力さえも失ってしまった。もしかしたら、現在最も地上波テレビで扱われていない球団は巨人と東京ヤクルトかもしれない。
糸井は即効性の戦力補強
2年目の金本監督が求める勝利と育成の両立。写真は今年1月の新人自主トレを視察する金本監督 【写真は共同】
おそらく、関西の野球マスコミにおける糸井フィーバーは来る宜野座キャンプからオープン戦、そしてシーズン開幕後も続いていくのだろう。糸井が大きな故障で長期離脱でもしない限り、なんてことない普段の練習風景もニュースとなり、独特の言語感覚で知られる彼の発言はなんでもかんでも注目され、さらに試合で活躍すれば大絶賛、不振に陥れば大バッシングといった阪神おなじみの光景が予想される。現役時代の金本監督をはじめ、その後の新井貴浩や城島健司、西岡剛、福留孝介など、阪神に移籍してきた大物選手の1年目はみんなそうだった。特に糸井はそのキャラクターから、ネタになりやすい。
ただし、ここで忘れちゃいけないのが、昨年のスローガン『超変革』である。
そもそも糸井の入団が決定する前は、彼の獲得について「せっかくの若手育成路線に水を差す」と反対する阪神ファンも少なくなかった。それでも阪神球団が糸井を獲得したということは、当然のごとく即効性の高い短期的な戦力補強、つまり今年の優勝狙いを意味しているのだろう。しかし、だからといって先述の若手育成路線が頓挫してしまっては意味がない。金本監督が求めているのは、あくまで勝利と育成の両立であるはずだ。
そう考えると、多くの野球マスコミが糸井に群がると予想できる今年だからこそ、私はあえて若虎たちの成長物語に注目してみたい。これまでの阪神にありがちだった分不相応な取材攻撃や外野の雑音が糸井の存在によって軽減されることで、若虎たちが過度なプレッシャーを感じたり、あらぬ勘違いをしたりすることなく、のびのびかつ粛々と練習に打ち込めるようになるのなら、この糸井獲得をより前向きに受け止められる。
いつだったか、現・阪神2軍監督の掛布雅之が「自分の若手時代は4番に大黒柱の田淵幸一さんがいて、その田淵さんという“大きな傘”の下で野球をやらせてもらっていたから、のびのびプレーすることができた」と語っていた。人気球団ならではの外野からの批判や雑音は、すべて田淵という傘が受け止めてくれた。きっと、その田淵が退団したあとは掛布自身が新たな傘となり、岡田彰布をはじめとする後輩たちを守ったのだろう。
この言を借りれば、今年の阪神は糸井という“大きな傘”を獲得したと解釈できる。