2年目に臨む金本阪神の目玉・糸井嘉男 若虎の成長を促す“大きな傘”と解釈

山田隆道

糸井獲得で求められる勝利と育成

糸井という大きな傘の下、横田ら若虎たちの成長が期待される 【写真は共同】

 昨年までチームの中核を担ってきた福留孝介が今年40歳になり、同じく鳥谷敬も昨年の大不振からの復活を期待されてはいるものの、それはあくまで期待であって、計算まではできない状況だ。しかも、2人とも寡黙な職人タイプであるため、チームに注がれる好悪入り交じった視線を一身に受け止める傘にはなりにくい。

 一方の糸井はその陽気で個性的なキャラクターも手伝って、良くも悪くも周囲の注目を集めやすい男だ。若手を育成するための雑音避けの傘という役割を考えると、これほど適した人材はいないだろう。今年36歳の糸井が現状のパフォーマンスを何歳まで継続できるかはわからないが、阪神球団には彼が元気なうちに次代の主砲を育成する責務がある。糸井の獲得とは、間接的な意味では若虎育成策のひとつというわけだ。

 と、ここまで書いておいて申し訳ないが、本音中の本音を言うと、私の中にはずっとモヤモヤした感情がくすぶっているのだ。なにしろ阪神の外野3人は、この糸井と福留、さらに昨年の新人王・高山俊でほぼ決まった印象がある。しかし、江越大賀や横田慎太郎など、ほかにも期待の若手外野手がまだまだいるため、彼らの出場機会を考えると複雑な気持ちになってしまう。だからといって、福留の急速な衰えや長期離脱、あるいは高山の伸び悩みなども想像したくない。このジレンマは本当に悩ましいところだ。

 しかし、糸井が入団した今となっては、もう前向きに解釈するしかないだろう。ここで水を差したところで生産性がないため、こうなったら現状を受け止めて、できるだけポジティブに糸井獲得の意義を導き出したい。それが、この大きな傘ということだ。

 今年、糸井にはもちろん活躍してほしい。阪神の勝利に貢献してほしい。ただし、阪神球団としては彼の活躍を短期的な戦力補強に終わらせるのではなく、中長期的な若手育成戦略のための傘としても機能させてほしい。それが勝利と育成の両立なんだと思う。

2/2ページ

著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント