アンカーとして新境地を拓いた小林祐希 “チーム小林”による自己改造の成果とは

中田徹

前に行きたい気持ちを押し殺して守備に奔走

極寒の中、小林が半袖のユニホームを着たのは、スハールスへのリスペクトを表したもの 【Getty Images】

 60分、ヘーレンフェーンが圧倒的に攻め込んでいたものの、まだ試合は0−0だった。ユルゲン・ストレッペル監督が大声で「ユーキ! ユーキ!」と叫び、揺りかごを激しく揺さぶるようなアクションで、小林に何か指示を与えた。すると小林は最終ラインの味方に対して、両手を広げるような仕草を示した。

「(監督から指示を受けたのは)俺が前に行ったからじゃない? でも俺は前に行きたい。『俺が行ったらもう1人の奴がカバーすればいい』と言ったら『お前にいて欲しい』と。それがチームの決まり。『ハフトゥー(have to)、マスト(must)』と言われたから、それはやらないといけない」

 前半の小林は、28分に右サイド奥深くまで攻め込み、41分には後方でのビルドアップに絡んでから攻撃に参加してシュートを放っていたが、ストレッペル監督の檄(げき)が飛んでからはアンカーのポジションに専念した。前に行きたい気持ちを押し殺している小林を見ているせいか、64分に相手パスをインターセプトしてチームの2ゴール目につながるパスを出した小林に、CBヨースト・ファン・アーケンと左サイドバックのルーカス・バイカーが祝福に駆けつけたのはほほえましく感じる。

「(インターセプトは、相手のパスコースを)切りながら、完全に誘いました。そういう『遊び』もできるようになってきた。その後の、簡単に後ろに下げずに(マークを)1、2枚剥がしてトンとパスを出せたのも、練習のたまものだと思う。本当に1段ずつですけれど成長しているとは思います」

スハールスへのリスペクトを表し、半袖を着用

 この日、小林がアンカーに抜てきされたのは、チームの大黒柱であるスタイン・スハールスが足首を痛めたから。シーズン前半戦は、スハールスが不在の時はユネス・ナミルがアンカーを務め、小林は左のインサイドハーフのままだった。しかし、今回は「『お前の方が全体を見てやれると思うから』って言われた」(小林)ということで、小林がスハールスの代役を任された。

「昨日(13日)、自分の中で3つの柱を決めて、今日はそれを徹底した。その3つの柱とは、『(ボールを)サイドに散らすこと』、あとは『守備で激しく』『空中戦で負けない』ということ。(システムのかみ合わせで)俺は絶対にトップ下のやつ(デュプラン)とデュエル(1対1)になるから、そいつにどれぐらいやらせないかとか、どれだけ後ろまでついていけるかとか、空中戦もそうだし、そこで負けなければ相手は何もないと思ったので、そこだけをしっかりやりました」

 極寒の中、半袖のユニホームを着たのは、スハールスへのリスペクトを表したものだった。

「スタイン、いつも半袖だから。『俺は彼と一番プレーしたいのにできない』という気持ちが彼に伝わればいいなと思った。彼は『そんなにリスペクトしすぎるな』とか『自分を出せばいい。ここは、そういう国だから』とか言ってくれる。彼に対するリスペクトの気持ちは忘れたことがない。彼とプレーしたいという思い、彼の分までやりたいという思い――。それが、ちょっとても伝わればいいかなという気持ちで、今日は半袖でした。雪の中で一人だけ半袖。逆に気持ちよかったね」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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