IDでもっと便利に新規取得

ログイン

究極の負けず嫌いたちが見せた結束力
下北沢成徳が春高バレー連覇を達成

エース黒後「みんなのおかげで勝てました」

春高バレー連覇を達成し、笑顔を見せる下北沢成徳の選手たち
春高バレー連覇を達成し、笑顔を見せる下北沢成徳の選手たち【坂本清】

 絶対に負けられない。


 強すぎる思いが、下北沢成徳(東京)のエース、黒後愛には大きなプレッシャーとなってのしかかっていた。いつも通りに打てばいいスパイクが決まらず、迷惑をかけてばかり。苦しいところでチームを勝利に導くのがエースなのに、このままでは終われない。


 最後の3点はまさにその意地が出た。


 ライトから2枚ブロックに当てて出し23−18、次はブロックの横をクロスに打ち抜き24−18。最後はセッターの山崎のの花がレシーブし、リベロの岩澤実育が上げたトスをフェイントで落として25−18。セットカウント3−0で就実(岡山)を破り、下北沢成徳が春高(全日本バレーボール高等学校選手権大会)の連覇を達成。勝利の瞬間、爆発した喜びが涙に変わり、黒後の頬を伝う。


「みんなのおかげで勝てました」


 勢いだけで突っ走った昨年とは違う。絶対に最後の春高で勝つんだ。格別の思いを持って臨み、ようやく手にした勝利は比べ物にならないほどの喜びに満ちていた。

切磋琢磨する負けず嫌いの集団

選手たちは熱心にトレーニングに励んだ。堀江(2番)は厳しい日程にも「体がつらくない」と語った
選手たちは熱心にトレーニングに励んだ。堀江(2番)は厳しい日程にも「体がつらくない」と語った【坂本清】

 全日本ジュニア代表の黒後、山口珠李、堀江美志に加え、1年生の石川真佑。攻撃陣は豊富で、昨年の春高を制した経験もある。まさに近年の高校バレー界の中でも屈指と言うべきタレント集団の下北沢成徳は、優勝候補の大本命だった。


 だが、周りに踊らされるのではなく、何よりも「今年は勝たなければならない」と思っていたのは選手たち。「絶対に負けられない」という意識は、チームの外ではなく、チーム内の競争につながった。


 たとえば、ボール練習と同様に下北沢成徳が重点を置くウエートトレーニングもそう。岩崎正人トレーニングコーチいわく、もともと黒後や堀江たち3年生の代は、体づくりに対する意識や運動能力が高い。「通常は『もっと頑張れ』とこちらがハッパをかけなければならないことが多いのに、今年のチームは『もうそのぐらいで抑えなさい』とこちらがブレーキをかけるほどだった」(岩崎コーチ)と言う。


 特に黒後は筋量やバランスに長けており、関節可動域も広く、バレーボール以外の運動能力も高い。一例としてウエートリフティングの種目でもあり、全身の筋力強化につながるスナッチやクリーン&ジャークなど、強度の高いトレーニングでもみるみる数値を伸ばした。昨年はスナッチで40キロを上げるのが精いっぱいだったが、今年は55キロを上げるなど目に見えて成長を遂げた。


 当然ながら周囲も「愛に負けられない」と切磋琢磨(せっさたくま)する。自分ももっと強くなりたい。周りに勝ちたい。負けず嫌いの集団がそろって熱心にトレーニングに励んだ結果、4日間で5試合という春高のハードスケジュールにも堀江が「全然体がつらくないので、もう1試合やれと言われたらできる」と笑うほど、著しい成果を残した。

ライバル心と互いをリスペクトする気持ち

1年生でコートに立った石川(3番)。出られない3年生の気持ちを背負ってプレーした
1年生でコートに立った石川(3番)。出られない3年生の気持ちを背負ってプレーした【坂本清】

 競争はトレーニングに限らず、当然ながらコートに立つためのポジション争いも激化する。特に1年生の石川が入学した直後や、インターハイ(全国高校総体)予選では出場機会が多くあった3年生の渡邉かやもその1人だ。


 石川は、堀江や黒後が「真佑のインナー打ちは上手なので、練習中から見てまねている」と称賛するほどの技術を備えている。1年生と3年生、学年や高校での経験は違うが、中学時代に大舞台を経験しており、全日本でも活躍する兄、石川祐希と同じ勝負強さもある。そんな石川を見て、渡邉は「死ぬ気で練習した」と言う。


「真佑の攻撃力は本当にすごい。だから自分がコートに立つために何をしなきゃいけないかを考えたら、やっぱりレシーブ。自主練の時間を使って必死で練習しました」


 台上から打たれるボールをただ拾うのではなく、ブロックをつけた。ブロックに当てたり、ブロックの間を抜いたり、試合を想定した練習を重ねた。レギュラーとリザーブのAB戦も、自身はBチームでプレーしたが、高さや巧さで勝るAチームの選手と対峙(たいじ)することで「自分の技術を上げる練習になる」と1本1本のプレーに取り組み、鍛錬を続けた。


 だがそれだけ必死で練習しても、石川の攻撃力や技術、将来につながる可能性にはかなわない。春高の前には「自分よりも真佑のほうがすごいんだから仕方ない」と吹っ切り、春高本番はレシーバーとして出場。何度もチームのピンチを救った。


 そして誰よりも、その姿を見て「負けられない」と思っていたのが石川だ。


「私が出ることで、出られない3年生がいる。それをちゃんと受け止めないといけないし、自分がだらしないプレーや、つまらないミスをしたらきっと嫌な気持ちになると思う。そんな思いをさせないようにしっかり戦おうと思いながら、ずっとプレーをしていました」


 負けたくないとライバル心を持つだけでなく、互いをリスペクトし合って、自分のやるべき役割を果たす。厚みを増したチーム力が春高を制する原動力となった。

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

スポナビDo

新着記事一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント