究極の負けず嫌いたちが見せた結束力 下北沢成徳が春高バレー連覇を達成

田中夕子

攻撃陣を生かしたセッター山崎の成長

高校からセッターに転向した山崎(7番)も、この1年で大きく成長を遂げた1人 【坂本清】

 強さの理由はそれだけではない。攻撃を束ねる、セッターの山崎が成長を遂げたことだ。

 黒後、堀江、山口、石川、椎名真子といった高さと巧さを備えるスパイカー陣を生かすべく、レフト、ライトはもちろん、センターにも十分な高さのあるトスを上げる。一見すれば高くてゆったりとしたトスは、相手ブロッカーにつかれやすい単調なものに見られがちだが、そうではないと小川良樹監督は言う。

「速い平行トスや、ブロックを振るトスを上げるセッターが上手だと思われていますが、実際は対角線に長いトスを上げるのはすごく難しい。山崎は、すごく難しいトスを丁寧に上げることができるセッターです」

 ブロッカーがいても、高いトスを打ち切れる技術と筋力、ボディバランスを備えたスパイカーがそろうのだから、トスは迷わず高く、丁寧に。小川監督の信念に基づき、高校からセッターに転向した山崎は練習を重ね、ブレのない打ちやすいトスをレフト、ライトに正確に上げられる稀有なセッターへと成長を遂げた。

 加えて、スパイカー陣も小川監督が「昨年は黒後頼りだった代だが、堀江、山口も成長して、セッターからすれば『どこへ上げようか』と迷うほどになった」と言うように、攻撃の枚数が増え、山崎はセッターとして新たな楽しさを知ったと言う。

「誰に上げても決めてくれるし、みんながみんな、『自分に持って来い』と言って助走に入ってくれるので、打ちやすいトスを上げれば勝てる。そう思えるようになりました」

エース、キャプテンとして成長した黒後

苦しい時こそトスを呼び込んだエースの黒後。キャプテンとしてもチームをまとめた 【坂本清】

 スパイカーが豊富にそろっているからこそ、どの場面で誰を使うか。それはセッターの腕の見せどころでもある。相手のディフェンスやブロッカーとの相性など、その時々で頭を悩ませることも多いのだが、迷った時に、山崎にとって1つの羅針盤ともいうべき存在が、黒後なのだと言う。

「去年までは自分が決めたい、いいところで打ちたいというのが強かったけれど、今年は全然違う。去年の3年生が苦しい場面で決めて、チームを助けてくれるのを見ていたから、苦しい時こそ愛が『私に持ってきて』と言ってくれるようになって、すごく助けられました」

 セッターだけでなく、エースとして、ゲームキャプテンとして成長を遂げたのは黒後も同じ。チームが勝つために何をすべきか。広い視野で見るようになったら、自ずとやるべきことが定まったと黒後は言う。

「『自分が決めなきゃ』じゃなくて、『自分が引っ張らなきゃ』って。みんな、力のある選手ばかりなので、私がいい流れをつくれれば決めてくれる。大黒柱になりたいと思ってやってきました」

 決勝戦は「足を引っ張っちゃった」と苦笑いを浮かべたが、先頭に立ってきた姿は他ならぬ仲間たちがちゃんと見ている。複数のテレビカメラに囲まれる黒後を見て、堀江が言った。

「愛が頑張ってくれたから、みんな、自分の役割が果たせた。大事な仲間で、『負けられない』と思う存在だったから、このチームで優勝できて本当にうれしいです」

 究極の負けず嫌いたちがそろった、1つのチーム。1人1人が成長を遂げ、抜群の結束力で見せた強さは本物だった。

2/2ページ

著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント