“井上尚弥、敵なし”を印象付ける完勝 世界最強ロマゴンとの対決は実現するか?

平野貴也

「ロマゴン戦」も期待されるが……

現在、全階級を通じて最強と言われるロマゴン。井上戦の実現は難しそうではあるが、ファンとしては期待したい 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 河野が言う「世界」は、日本を飛び越えて世界中の注目が集まる中での戦いを意味する。12戦全勝(10KO)と無敗街道を歩んでいる井上は、すでに2階級の世界タイトルを獲得しており、実績は十分。

 しかし、軽量級には、全階級を通じて最強と言われる4階級制覇王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)が存在する。日本でも4度世界戦を行っており、松本博志、新井田豊、高山勝成、八重樫東といった面々を破って強さを証明している。日本のボクシングファンには「ロマゴン」の略称もすっかり定着している。井上とゴンサレスの対戦が実現すれば楽しみ以外の何も存在しなくなるが、現実は簡単ではない。

 選手が実績を積んで評価を高めれば高めるほど、試合の価値は膨らみ、両者の希望条件を満たすマッチメークは難しくなる。ゴンサレスは「希望するファイトマネーが用意されれば、いつでもやる」と公言しているが、ビッグマッチは王者と挑戦者という構図が成立しない。2階級制覇の無敗の王者が、相手の条件ばかりを飲むわけがないのだ。井上自身は対戦の希望を持っており、大橋ジムも前向きな姿勢を見せてはいるが、井上が実力を発揮でき、なおかつ成功した場合に価値が高まる舞台にしなければならないので、簡単ではない。

賞味期限が切れないうちに実現できるか!?

 ファイトマネーをはじめとする興業的な問題だけではなく、競技的な部分でも交渉は難しい。大橋会長が問題に挙げたのは、体重とタイミングだ。井上は若く、現在のスーパーフライ級でも減量が楽ではない。年齢を重ねれば体重は増えやすく、減りにくくなる。「先にバンタム級に上げてしまって、相手にも上げてもらうとかね」と話したのが、一つのアイデアだ。しかし、最軽量のミニマム級から体重を上げて来たゴンサレスが、5階級目となるバンタム級を適正体重と考えるかどうかという問題もつきまとう。タイミングについても、減量のコントロールが難しいため、思いついたように3カ月後にやろうなどという話では、コンディション調整が追いつかない。大橋会長は「前もって言ってくれないと。逃げるとか逃げないとかじゃなくて、お互いに良いコンディションでやらなければ意味がない」とけん制する。

 29歳のロマゴンと、23歳の井上。ともに年齢が衰えず、実績面でも傷がつかない状態で、なおかつ適正体重でリングに上がる――。そんなビッグマッチを賞味期限が切れないうちに実現することはできるのか。ファンは、年を越した後の2017年に思いを馳せる。

 一方、ビッグマッチの実現が難しく、階級も変えないとなると、井上はいよいよ相手を見つけるのが、難しい。注目を集めやすい日本人対決でさえクリアしてしまった。井上は、世界が注目するビッグマッチへの期待と、強過ぎる者の悩みを抱えて次の年を迎える。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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