涙のルメール、3角悔やむ武豊キタサン 両雄の激闘は有馬から凱旋門賞へ

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キタサンブラックをねじ伏せた“凄み”

粘るキタサンブラック(左)を力でねじ伏せてみせた 【写真:中原義史】

 スタート直後は中団よりも後ろの位置。「外めの枠だったから先行馬を行かせて4、5番手あたりから行ければ」、そう考えていた池江調教師の思惑よりも後ろからの競馬だった。多少不安もよぎったという指揮官だったが、そこは世界の名手ルメールだ。1コーナー過ぎからジワリ、ジワリとポジションを上げていき、気がつけば向こう正面では2番手を行くキタサンブラックをぴったりとマークする3番手までポジションを押し上げていた。この動きを、ルメールはこう振り返っている。

「スタートしてすぐサトノダイヤモンドはリラックスしていたし、マリアライトのすぐ後ろ。とてもいいポジションだと思いました。でも、マリアライトがだんだんと内に入れていったので、ダイヤモンドは1頭だけ大外になってしまいました。2500メートルをずっと大外から行くというのは難しい。それでキタサンブラックを見たら、2番手ですごくリラックスしていた。だから、マークに行こうと2コーナーから上がっていったんです」

 水曜日の最終追い切り後の会見でも、「一番強いのはキタサンブラック」と、まるでライバルはこの1頭と言わんばかりのコメントを残していたルメール。その通りの競馬をしてみせたというわけだ。

「菊花賞を勝った後も馬はとてもフレッシュでした。これはとても大きなアドバンテージです。それにサトノダイヤモンドはすごく乗りやすい馬。だから、僕としては仕事が簡単なんです(笑)」

 キタサンブラックを射程圏に置く形で迎えた4コーナーも手応えは十分。ただ、ここでルメールは「少し心配になった」という。それはサトノダイヤモンドの内にいたゴールドアクターが外へプレッシャーをかけながら張り出してきた。これにサトノダイヤモンドはややひるんだか、「反応が少し遅かった」。しかし、これから日本代表として世界を相手に戦うトップホースとなるであろう馬は、ここからが違う。

【写真:中原義史】

「直線に向いたらサトノダイヤモンドがもう1回伸びました。ゴールまで本当によく頑張ってくれました。勝ったのは分かりましたが、差はハナかアタマだと思っていたので、クビ差もあったのはビックリしました。今日の彼はハートが凄かったです」

 並んだら抜かせない勝負根性の塊のようなキタサンブラックを力でねじ伏せた最後の50メートルは、確かに3歳馬とは思えない“凄み”があふれ出ていた。同世代を相手にしなかった菊花賞、そして古馬トップホースを実力で下したこの有馬記念――原石は今、光り輝く宝石へと生まれ変わろうとしている。

春は国内専念、秋はフランスへ

春は国内専念、秋はいよいよ凱旋門賞だ 【写真:中原義史】

 それでもまだ完成ではない。まだ磨き足りない。池江調教師が言う。

「春よりは良くなっていますが、まだ背腰にゆるいところがあります。ここがもっと安定してきたら、もう1つ、2つギアが備わると思いますし、爆発力が出てくると思いますね。来年の秋ごろにはもっと良くなると思いますよ」

 来年の秋と聞いてピンと来るのは、やはり日本競馬の悲願であるフランスの凱旋門賞だ。これに関してトレーナーはその場でハッキリと明言した。出走します、と。

「来年の凱旋門賞から逆算してローテーションをしっかり組んでいきたい。先ほどオーナーと話しまして、春は国内に専念です。日本で何戦かして、秋はフランスに行きたいと思っています」

 ルメールも凱旋門賞挑戦には諸手を挙げての大賛成だ。

「サトノダイヤモンドは頭が良くて、スタミナもあるから、いいポジションを取ることができます。凱旋門賞にはいいタイプ。すごく合っていると思う。だから、いいコンディションだったら、ぜひ行ってください(笑)」

 実は日本競馬同様に、ルメールも凱旋門賞は未勝利だ。日本の馬でフランスのビッグレースを勝ちたい――サトノダイヤモンドこそ、ルメールの夢をかなえてくれる最初の馬となるかもしれない。サトノダイヤモンドが照らす未来は、日本競馬の悲願、そしてルメールの悲願を映し出している。

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