SP首位の無良、示した確かな存在感 課題克服に必要な「一番になる気持ち」

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2番手の宇野に勝つ重要性

宇野は4回転ジャンプにミスが出たが、無良との差はわずか。FSで巻き返しを図る 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 彼には五輪出場という夢がある。それはコーチを務める父・隆志が選手時代にかなえられなかった夢でもある。五輪が現実的に手の届くところにあった13年の全日本は6位に終わり、涙をのんだ。「現役でいる限りは五輪を目指したい」。そう心に決め、今も練習に励んでいる。ちょうど来年の12月には、再び五輪出場の懸かる選考会に臨むことになる。

 その意味でも、今大会は是が非でも結果を残したいところだろう。羽生は不在でも、現状2番手と目される宇野に勝てば、1つの成功体験として彼の心に刻まれるからだ。成功を積み重ねていけば、それは自信となる。

 昨年の全日本で、彼は「ユヅ(羽生)と昌磨に食らいついていきたい」という言葉を繰り返していた。それから1年がたち、羽生は4回転ループを組み込んだ「自身史上最高難度のプログラム」に挑戦中。宇野も4回転フリップを習得し、この日のSPではそれに3回転トウループを加えたコンビネーションに挑んだ(結果は4回転フリップでステップアウトし、3回転トウループは跳べず)。前を走る2人は日々進化を遂げている。

 無良も4回転サルコウを練習では跳んでおり、今大会ではプログラムに入れないようだが、シーズン後半には挑戦する可能性がある。25歳とベテランの域に達した今も貪欲に進化を求め、若い2人の間に割って入ろうとしている。

「今回はユヅがいない中で、自分がどれだけ存在感を強くアピールできるかだと思っていました。それは達成できたと思います」

 SP後、彼はそう言ってプライドをのぞかせた。

狙うべきは表彰台入りではなく優勝

 首位で迎えるFSは、今の彼の真価を問うものになりそうだ。なお、彼が主な大会においてSPをトップで終えたのは、14年のNHK杯以来。くしくも舞台は今大会と同じ大阪・なみはやドーム(当時)だった。そのときは、FSでミスが出て3位に順位を落とした。当時の二の舞は演じられない。

「FSが勝負だと思うので、フランス杯のときよりも良い形で終われるようにしたいです。それができれば表彰台に上がれると思うので、まずはそこを目指して1つ1つの要素で減点がないようにしたいと思います」

 彼がそう語るのを聞いて、無良コーチが以前話していたことを思い出した。

「競技者として一番になれるかは本人の心持ち次第だと思います。『俺が一番になる』という意気込みをより強く持ってほしい。でもそれは持とうとして持てるものではなく、自然と心の中に植えつけられるものだと思うので、今後はそういうものを手にしていってほしいなと思います」

 SPでは首位に立ち、確かな存在感を示した。ただし、彼が狙うのは表彰台入りではなく、優勝であるべき。あえて言葉にしなかっただけかもしれないが、無良コーチも言うように『一番になる』という強い気持ちがなければ、頂点には手が届かない。宇野はSPで4回転フリップ+3回転トウループに挑戦したように、FSでも強気に攻めてくるはずだ。こうした追われるプレッシャーの中、どういう演技を見せるかによって、このあとの道は自ずと決まってくるだろう。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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