セブンズ日本代表、全敗からの再出発 「小さな目標を積み重ねていく」

斉藤健仁

強豪・オーストラリア相手に大善戦

オーストラリア代表戦で突破を図る中野将宏 【Getty Images Sport】

 特にアタックでは「ジャパン・フレア(ひらめき)」を掲げるカラウナHCの下、ラックの回数を減らし、オフロードパス(タックルを受けながらも味方につなぐパス)を多用し、ボールを動かすスタイルを指向。練習時間が多くなかった割には通用していたと言えよう。経験ある3選手がしっかりボールを前に運び、さらにSHとして出場した中野がリズムをつくった。

 特に予選プール初戦のオーストラリア戦は、前半、小澤が見事なランでトライ。さらに2本目もパトリック・ステイリン(日本IBM)からレオン・エリソン(ヤクルト)へのキックパス、さらにエリソンがスペースにキックし、そのボールを小澤が拾い上げて中央にトライを挙げた。14対19で敗戦したが、WS14戦目にして初めてオーストラリアに勝てるかもしれないという試合内容だった。

 続くケニア戦も互角だったが、惜敗。時間が空いた3戦目、フランスには0対35で大敗。特に15人制のように下半身にタックルしてボールをつながれたり、セブンズ特有の上半身へのタックルのスキルの低さで突破を許し、トライを重ねられた。そして2日目の下位トーナメントでもアルゼンチンに敗れ、ウガンダに白星を献上し、5連敗と最下位で大会を終えた。

カラウナHC「3人のゴトウが見つかった」

タックルするレオン・エリソン。正確なキックでもチームに貢献した 【Getty Images Sport】

 翌週の南アフリカセブンズも同様で、アタックでは時折、良い部分はあったが、連戦の疲れもあり、ディフェンスのもろさは改善することができず、またもウガンダに敗れて最下位で大会を終えた。ただ、キャプテンの鶴ヶ崎は、点差がついてもあきらめず、常にリーダーとして体を張って攻守でチームを鼓舞し、2日間で20のタックル、13のボールキャリア、4度のラインブレイクとオフロードパスで、パフォーマンスが優れていた選手の5位に入ったほどだった。

 カラウナHCが帰国後、リオ五輪で大活躍した後藤輝也(NEC)を引き合いに出して「3人のゴトウが見つかった」と言うほど鶴ヶ崎、小澤、そして8カ月ぶりのセブンズの試合だったというヘンリーの3人のパフォーマンスは素晴らしかった。「五輪に出場できなかった悔しさはあります。若い選手が多くて、WSを経験したことのある選手は3人しかいなかったので、自然と先頭に立っていかないといけないという気持ちが出てきた。この2大会は自分にとってプラスになった」(小澤)

 また「若い選手がWSの舞台を経験できたことが一番、大きかった」と指揮官が振り返ったように、アジアシリーズから継続してセブンズに出場し続けたSH中野、そしてHO韓のような選手が台頭してきたことは大きな意味を持つ。大学生ながら中軸として活躍した中野は「コンタクトが(アジアとは)全然違った。ただ、それを避けてプレーすれば通用する部分もあった。大学生が多くて、みんな最初は不安だったが、それなりに良いプレーもあったし、良い経験になった。次に踏み出せる2大会でした」と振り返った。

岩渕GM「悲観的にならず、ポジティブに」

ケニア戦でタックルを受ける鶴田 【Getty Images Sport】

 ただ、2大会ともに5連敗で、ポイントは2しか取れず、鶴ヶ崎キャプテンは「1勝もできなかったのが現実。代表としてのプライドを持ってやったが、自分がチームをまとめ切れなかった」と悔やんだ。やはり、アタックに時間をかけて、「フィジカルとディフェンスという課題が見つかった」とカラウナHCが言うとおり、守備を整備するまで手が回らなかったのは事実。もちろん、鶴ヶ崎ら3人以外の個々のスキルや経験も足りなかった。

 岩渕GMは「冷静にならないといけない。何となく結果を出して強くなっているように思われているけど強くはない。ただ、勝たないと意味はない」と現状を分析しつつ、「悲観的にならず、ポジティブに捉えて、セブンズでは新たな試みをやっていかないといけない」と前を向いた。

他競技から転向した選手も代表候補に

NZでプレーしている中島知也らが、新たに代表合宿に参加した 【斉藤健仁】

 今回出場したメンバーだけでなく、11月の合宿に参加した練習生も含めて、新たな人材を発掘するため、陸上の十種競技から転向した谷浩二朗(東芝)、野球をやっていた黒川ラフィ(専修大4年)、NZでプレーしている中島知也らを招集し、1月まで強化合宿を重ねていく。また、トップリーグから選手を派遣してもらうのが難しい時期を考慮すると、やはり協会が直接選手と契約するケースを考えた方がいいかもしれない。

 WSは残り8大会。1月末の大会からは、シーズンを終えた大学生やトップリーガーも出場可能となろう。「どの選手を起用するか話し合っているが、今いる選手たちを押し上げることも大事と考えています。過去のキャリアで誰もポジションを保証されていない」とカラウナHCは選手に、さらなる競争を促すつもりだ。

 最後に、この2大会を振り返ってNZ人の指揮官は「いいところもいっぱいあったが、(2敗した)ウガンダには勝たなければならなかった。そこだけは残念でした。我々は小さな目標を積み重ねていきます。まず、WSに残留し、来年のアジアシリーズでいい成績を残し、(2018年にアメリカで開催される)セブンズのワールドカップの出場権を得ること。その先には五輪という大きな目標があります。我々はみなさんを失望されるわけにはいかないですが、長い、長いプランになる」と理解を求めた。

 再び、ほぼゼロからのスタートとなった新生男子セブンズ日本代表。東京五輪という大きな目標、大義がある中でも、昨シーズンまでと同様に環境面の整備は進まず、今後も厳しい試合が続くことが予想される。それでも、鶴ヶ崎、小澤、ヘンリーの3選手の覚悟と責任感、そして若手の躍動と光明も差していた。「次の大会でまず一勝したい」と力強く語るキャプテンの言葉が頼もしかった。

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント