日本球界のデータ活用例とは!? 変わりつつある選手指導の現場から

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分析に多様性があるメジャーリーグ

MLBの方がアナリティックに多様性があると神事氏は語る。アストロズのカイケル(写真)は決してノビのある球ではないが打ち取ることができる 【Getty Images】

――日本の野球界は、海外と比べてもアナリティクスの部分で遅れているなと感じたことはありますか?

 日本の場合、回転数というと数値が高い方が良いというイメージですよね。実は、そういうわけではない、というのがメジャーリーグでの数値のとらえ方だったりします。回転数が低くてもいい、平均値から外れていることが重要であるという考え方です。日本は、良いという指標は一方向しかないようなイメージなのですが、実はそうではない。メジャーリーグの方がアナリティクスに多様性があると感じていますし、日本よりもいろいろなピッチャーが評価されていると思います。

 例えば、2015年にサイ・ヤング賞を獲得したダラス・カイケル(アストロズ)や、ゴロ率が80%以上のザック・ブリトン(オリオールズ)という投手がメジャーリーグにいますが、トラッキングのデータを見ると非常に面白いことが分かります。彼の投げるボールは、「垂れている」のです。日本では「すごくホップする」とか、藤川球児投手みたいに「ボールがノビる」投手は高く評価されます。反対に、そうではないピッチャーを悪いピッチャーだと評価してしまう。メジャーリーグでは、ノビはなくてもちゃんと打ち取れる、それでゴロを量産できるなら良いピッチャーだろうという評価がされます。

――そのようなことを感じながら研究されているという事は、やはりご自身が指導するうえでは、多様性を持った考えやトレーニング法を伝えることを意識されているのですか?

 そうですね。野球は採点競技ではありません。きれいなフォームでも打たれてしまっては意味がありません。ガチャガチャしたフォームであっても、打たれない投手の方が良い投手です。しかし、日本は美しさを重視します。ここに私は違和感を覚えます。「打ち取ることができる投手はどういう投手か」という結果から逆算して、良いフォームを考えると、必然的に多様性が生まれるのではないかと感じています。

 メジャーリーグで良い成績を残している選手が、日本で言う「きれいなフォーム」ではなかったら、「それはメジャーリーガーだから」という論理的ではない理由で結論づけてしまう。でも僕たちがやっているバイオメカニクスは世界共通ですし、使っている数式だって同じです。本来はちゃんと数値を使って評価できるはずなのに、自身の評価基準に合わないものは、それを退け、良く分からない理由で結論づけてしまう。しかし、テクノロジーの進歩によって、技術を見える化できるようになってきています。近い将来、多様性を認めざるを得ないような時代になると思います。素晴らしい能力を持っていながらも、光を浴びなかった選手が活躍することも大いにあると考えています。

近い未来に指導者の仕事は変わる

――研究者としての顔をお持ちですが、一方では国学院大の教員としても活動されてます。授業では学生にどのようなことを伝えているのでしょうか?

 僕の専門分野は、解剖学と生理学、そして力学を背景としたバイオメカニクスです。私の所属する人間開発学部は、指導者養成を目指しています。私の授業では、まずは運動が起こるメカニズムそのものを学びます。さらに、学生が指導者になることを想定していますので「学んだことを人に説明できるようにしよう」と言っています。

 例えば垂直跳びを高く跳ぶためには、地面に対して大きな力を加えて、かつ長い時間力を加える必要があります。これは力積という物理量で説明することができます。まず、このような高く跳ぶためのメカニズムを理解することが必要です。

 ただ、指導者が「力積を大きくして!」と言っても、選手や生徒・児童には伝わりません。力学的な用語をちゃんと指導の言葉に落とし込むことが必要です。そうすると、高くジャンプするためには「強く蹴れ」というような指導にはなりません。半分正解ではあるのですが、長い時間力をかけなければいけないので、「よりしゃがみ込みましょう」とか、「手を大きく振りましょう」というような指導が必要になります。僕の授業では、力学という学問はもちろん、それをどのように指導の言葉に変換させるかという点を意識しています。

――今までの活動で一番やりがいを感じた瞬間は?

 選手や指導者が使う言葉が変わったときはうれしいですね。今までは、「しっかり」とか「強く」のようなぼんやりとした言葉を使っていた選手が、具体的な数値を使って話ができたり、ちょっとした科学的な言葉を使ってきたりするときです。

 そうなると、目標設定が明確になって、トレーニングプログラムへの落とし込みもできますし、トレーニング結果の検証もできるようになります。つまり、うまくなるためのサイクルを回すことができる。さらに慣れてくると、自分自身でデータが読めるようになってくるので、選手や指導者が自立していきます。私がいなくても、そのサイクルが回り出したなと感じたときが一番やりがいを感じますね。自分を必要としなくなったときに、やりがいを感じるって変ですけど、本当です(笑)。

――神事さんが目指している目標や夢があればぜひ教えてください。

 機械学習とかAIによって、正直指導者の役割は大きく変わると思っています。今後、打ち取るための最適なボールが研究によって明らかになったり、テクノロジーの進歩によって選手がセルフコーチングできるような状況になってくるでしょう。そうなったとき、指導者は技術だけを教えるのではなくて、モチベーションを上げるとか、目標を設定してあげるということが主な仕事になってくるだろうと予測しています。

 選手は自分自身で考えるようになりますし、指導者もインプットを増やさないとついていけなくなるでしょう。経験だけでやれてきた部分が、そうではなくなります。パラダイムシフトは間違いなく起こります。これによって、スポーツの見方、考え方、関わり方が変わっていき、もっとスポーツを面白くしたい。そして、スポーツでワクワクする人を増やしたい。これが私の目標です。

(取材・文:澤田和輝/スポーツナビ)

テクノロジーの進歩により、将来の指導者の仕事が変わっていくと指摘する神事氏 【写真提供:神事努】

■神事努/ジンジ・ツトム

国学院大学人間開発学部健康体育学科助教。1979年生まれ。バイオメカニクスを専攻し、中京大学大学院で博士号を取得。2007年から国立スポーツ科学センター(JISS)のスポーツ科学研究部研究員。2015年4月から現職。12月17日に東京・日本科学未来館で行われる「スポーツアナリティクスジャパン2016」で「テクノロジー最前線〜トラッキングデータの活用〜」をテーマに講演する予定

スポーツアナリティクスジャパン2016
【日時】2016年12月17日(土)10:15〜18:30
【会場】日本科学未来館
【主催】一般社団法人日本スポーツアナリスト協会
【参加料】会員:1万円/一般:1万3000円/懇親会:3000円(全て税別)

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