理に適っているサウスゲイトの監督就任 イングランドの悲願だった“世襲”人事

東本貢司

代表監督にサウスゲイトが正式就任

イングランド代表監督に正式就任したサウスゲイト 【写真:ロイター/アフロ】

 懸案のイングランド代表監督後任人事は、予想通りギャレス・サウスゲイトの正式就任で決着した。サム・アラダイスが不祥事で辞任に追い込まれた直後でこそ、何名かの選択肢、特にユルゲン・クリンスマン米国代表監督(当時。その後、同職を解任)あたりを対抗馬に数えるうわさも立ったが、サウスゲイトの暫定監督期間中にそれもほぼ立ち消えになっていた。というよりも、こういう候補者リストアップは形式的な行事と言ってもいい。

 識者や元代表プレーヤーからもサウスゲイトを現時点での最適任者と見なす声があったこともあるが、アラダイス解任発表の時点でFA(イングランド協会)の腹は決まっていたと考えるべきだろう。むしろ、サウスゲイト以外はありえない状況だったからだ。

 アンダーエイジ代表監督としての経験は十分、その成績も上々でケチのつけどころがほとんどない。ロイ・ホジソン時代からシニア代表との連携も緊密だ。若返り、世代交代が進行中の今、A代表の多くのプレーヤーが何らかの形でサウスゲイトと交流があり、実際に相互信頼の土台が整っている。ましてや、今後さらなる若手の成長を期待しなければならないとなれば、サウスゲイトは絶好の、願ってもない橋渡し役にもなる。

 つまり、プレーイングスタッフサイドからの疑問や異論はかけらもない。しかも、自身が90年代後半の“スリーライオンズ”(イングランド代表の愛称)でバックラインを支えたバリバリの元代表。すべてが理に適っている。

“昇格”はホジソン時代から既定路線?

U−21イングランド代表を率いていたサウスゲイト監督(写真は2015年) 【写真:ロイター/アフロ】

 実は、筆者は元より、サウスゲイトの“昇格”はホジソン時代からの既定路線だったと考えていた。ユーロ(欧州選手権)2016での惨敗でホジソンが“繰り上げ辞任”したときでもよかったのだが、そのときはアラダイスという格好の人材がいた。そのアラダイスがメディアの不正調査キャンペーンの餌食になってしまったのは、確かに青天の霹靂(へきれき)だったが、それすら一種の事故だと考えれば、そのせいで予定が少々早まっただけのことなのだ。

 ここまで、ひょっとしたら結果論で理屈を正当化していると思われる向きもあるかと思う。しかし、FAにとってこの「代表監督:アンダーエイジ→シニア禅譲」は、かねてよりの悲願でもあるのだ。

 ちょうど、1970〜80年代を席巻したリヴァプールFCで恒例となっていた、いわゆる「ブーツルームの伝統」(歴代の副監督が監督職を“世襲”する人事。伝説の名将ビル・シャンクリー以来、少なくとも4代これが続いた)さながらに。なぜなら、副監督(アンダーエイジ代表監督)こそが誰よりも“双方”のチームを知り抜いている存在に違いないのだから。

 しかし、理想と現実は往々にして結びつかない。フットボールの質そのものがドラスティックに変化したこともある。特に、90年代後半以降は、メンタリティーの異なる異邦の助っ人プレーヤーが大挙して流入してきた。こうなると、アカデミーから、もしくは十代の年齢から徐々に経験を積んでトップチームに上がるという、本来の“王道”は通用しにくくなってしまう。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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