理に適っているサウスゲイトの監督就任 イングランドの悲願だった“世襲”人事

東本貢司

エリクソン到来でできた断層

2001年に初の外国人監督として就任したエリクソン(中央) 【Getty Images】

 代表チームの場合は、監督をノン・イングリッシュに求める風潮が似通った齟齬(そご)をきたすようになったと考えられる。発端となったのは、ご存じ2001年に代表監督に就任したスヴェン・ゴラン・エリクソン。エリクソン抜てきには、当時FAの評議員の1人だったアーセナルの副チェアマン、デイヴィッド・ディーンの発言力が大きくものをいったと言われている。その裏には、彼自身が「世紀の出会い」と自慢するアーセン・ヴェンゲルの推挙があったようだ。

 また、そのエリクソン指名の少し前、FAチェアマンに就任したアダム・クロージャーにも注目すべきだろう。クロージャーは当時英国最大手の広告代理店で辣腕(らつわん)をふるっていた若手プロデューサーであり、出自もスコットランドだった。まさに、異質な血が幾重にも流れ込んで、エリクソンという前代未聞の外国人代表監督が実現したのである。

 さらに付け加えておくとすれば、海外でのプレー経験とチェルシーに大物外国人を招へいして収めた好成績をバックに、満を持して代表監督に躍り出たグレン・ホドルの影響も少なくないはずだ。たとえ、彼が怪しげな霊能者を代表チームに招いたり、身体障がい者に対する差別的発言をして、追われるように表舞台から姿を消したとはいっても。

 要するに、イングランドは、スリーライオンズは、あのエリクソン到来から、連綿と受け継がれてきたはずの、代表チームとしてのカタチとプライドに、断層、もしくはボタンの掛け違えのようなものが染みついてしまったのかもしれない。それに、根源的な負い目もあったろう。母国として、また、永遠のライバル、ドイツ、イタリア各代表が過去一度として代表監督に異質な血を入れたことのないという事実に対しての。

 それを憂慮しながらも打つ手を見いだせないできたFAにとって、ホジソンからアラダイス、そしてサウスゲイトへ順次“禅譲”される図式は、大いなる復活への足掛かりと捉えていたはず。ならば、思わぬ“事故”で少しタイムスケジュールが狂ったとはいえ、アンダーエイジ代表で確固たる実績を築いたサウスゲイトの指名は、迷う要素の何ひとつない、当然の帰結に違いないのである。

強いナショナリズム・ファーストの志向か

サウスゲイト(右)は今後どのようにチームを導くのか 【写真:ロイター/アフロ】

 それに関するひとつの象徴的なエピソードがある。他でもない、エリクソンとアラダイス辞任にまつわるスキャンダルの“共通点”について。まず、それぞれの引き金を引いたのはいずれもタブロイドメディアの“覆面取材”だった。エリクソンのケースでは、アラブのフィクサーと称して彼のクラブ監督への“野心”をえぐり出そうと鎌をかけ、アラダイスには過去の横紙破り的な放言を暴いて、その卑しき人品への警告を発した。

 そして――。エリクソンは激怒し、無法図で底意地の悪いイングリッシュメディアに失望し、アラダイスは自らの脇の甘さとファンと国民を裏切った後悔から肩を落とし、それぞれ身を引いた。

 お分かりだろうか。確かに節度を逸した報道姿勢ではあろう。が、そこまでしても“母国”イングランドの誇りと清廉質実なメンタリティーを守ろうと、あえて一線を越えてみせたのだとも解釈できそうだ。言い換えれば、勝ち負けを超越した、イングランドの、イングランド人によるフットボールを世に問うてこその、代表チームへの憧れと自負を標ぼうしているのだとも――きれいごと? いや、曲がりなりにも多感な青春期をかの国で送った筆者には、そんな思いを断ち切れないのである。それはまた、EU(欧州連合)脱退へと舵を切った、強いナショナリズム・ファーストの志向とも相通じるものがないだろうか。

 だとすれば、サウスゲイト率いるスリーライオンズの戦いぶりにもおのずと興味津々たるものがあろう。それは、戦術とか誰と誰がピッチでどんな役割を担うとかの次元ではなく、ひたすらスピリットの問題――サウスゲイトと代表メンバーとの信頼の絆が紡ぎ出す志(こころざし)の発露。結果は必ずや、そこからついてくるものなのに違いない。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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