清宮幸太郎だけじゃない早稲田実の強さ 創造した文化とつないだ伝統の融合
ノビノビやる環境で明るいチーム
自分の結果は伴わない時期も声を出してチームを鼓舞し続けた清宮(背番号3)。チームを都大会優勝、神宮準優勝に導いた 【写真は共同】
「筋トレで体幹を鍛えて体重を増やす」という文化がない。「体重5キロ増」は新チームのスローガン『GO!GO!GO!』のひとつになった。筋トレメニューは増えて、体重も増した。1年生の4番・野村大樹は「飛距離が伸びて、入らなかった打球がスタンドまで届くようになった」という。
秋のシーズン、野村を筆頭に早稲田実は1年生が活躍した。東京都大会で9人がベンチ入りし、スタメンに5人が名を連ねるゲームがあった。明治神宮大会しかり、レギュラー背番号を5人の1年生がつけた。あるOBから「早実は実力が同じなら若い方を使う伝統がある」と聞いたことがある。事実、王貞治氏も荒木大輔氏も1年生から活躍してきた。
昨年、清宮は1年生でチームに溶け込んで、臆することなく力を発揮していた。それは今年も同じで「清宮が昨年、上級生にしてもらったことを今年は下級生に対してやっている。やりやすい環境を作っている」と和泉実監督は言った。本人も「やりやすいのが持ち味。ノビノビやれる環境が作れれば」、野村も「清宮さんがキャプテンになってさらに明るいチームになった」と証言する。
清宮は一方で伝統を、文化を守ってつないでもいるのだ。
監督がチーム一丸を感じた言葉の力
「清宮主将でチームがさらに明るくなった」という1年生の4番・野村はノビノビとプレー。都大会決勝ではサヨナラ本塁打、神宮大会でもその打棒を爆発させた 【写真は共同】
その前に、チームとして生まれ変わる瞬間、ある練習試合の敗戦があった、と野村が言う。
「雰囲気が悪くなってしまって。恥ずかしさもあって言ってなかった、スローガンの『GO!GO!GO!』をみんなで声に出すようになった」
和泉監督もチーム一丸を感じ取っていた。
「ゴーゴーゴーと簡単な言葉だけど、練習でも声に出していた。言葉は力になると思った」
ところが、言いだしっぺの清宮のバットが湿りだす。都大会準々決勝の関東一高戦は公式戦初の無安打を記録(1年時の高校日本代表での試合は除く)。準決勝の国士舘高戦は単打1本、決勝の日大三戦にいたっては「記憶にない」という5打席5三振だった。左腕のスライダーに腰が引けて、空振りを繰り返した。極度の不振で人並みの高校生の部分もあったと言えるのだが……。