“ロマゴン戦”見据え圧勝狙う井上尚弥 思いがけず実現した日本人対決の行方は!?

船橋真二郎

年末の試合は「通過点」だと強調

12月30日に日本人同士のタイトルマッチが決まった王者・井上尚(左から2人目)と挑戦者・河野(同3人目) 【写真は共同】

 カメラマンの求めに応じ、フェイスオフでにらみ合ったときの井上尚弥(大橋)の目に、やけに力が入っているな、と感じたのは気のせいだろうか。視線の先には、前WBA世界スーパーフライ級王者の河野公平(ワタナベ)。写真撮影の前に行われた会見で井上が発したコメントもそうだった。
「次の試合は自分が来年大きな舞台に立つためにも重要な試合になる。一方的に自分のボクシングをして、KOで勝ちたいと思う。前回の試合が納得のいく試合ではなかったので、自分も含めて周りの人たちも納得できる試合をして、来年につなげたい」

 そして、とどめは会見終了後、囲みでの一言だった。
「今回は一方的な内容で(井上は)やっぱり強いな、という印象だけを残して勝ちたい」

 いつもの井上のようでもあり、一方で対戦相手を前にして、こうもはっきりと「KO」と口にし、「通過点」を強調したことがあっただろうかと、どこか刺激的にも感じられたのである。ここ2戦、拳の負傷や腰の痛みを抱え、自分の思うような試合ができなかったもどかしさが、そうさせたのか。あるいは、日本人同士のシチュエーションが、そう感じさせただけなのか。

強敵との対戦熱望も不発に

来年末のロマゴン戦に向け、強敵との対戦を熱望したが不発に終わっていた 【写真は共同】

 9日、東京・有明コロシアムで12月30日に開催されるトリプル世界戦の記者会見が都内のホテルで開かれ、メインとなるWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチで王者の井上が4度目の防衛戦の挑戦者に河野を迎えることが発表された。

 来年末にも、4階級制覇の現WBC世界スーパーフライ級王者で、現役最強とも評される“ロマゴン”ことローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との対戦が期待されている井上。当初は9月4日の3度目の防衛戦後に大橋秀行会長が明かしたように、8月31日に河野を下し、WBA王者となったルイス・コンセプシオン(パナマ)との統一戦実現を目指した。2階級制覇の実績もあり、軽量級きっての強打者でもあるコンセプシオンは、井上の評価をさらに確かにするためにも格好の相手と思われた。

 だが、コンセプシオン陣営は、活況を呈するイギリスの有力プロモーター、エディー・ハーンのオファーを選択。最終的に12月10日のマンチェスターで、北京五輪出場経験があり、プロ転向後、20戦全勝14KOを続けるイギリス期待のカリド・ヤファイとの防衛戦に臨むことになった。当日のメインはロンドン五輪スーパーヘビー級金メダリストで、17戦全勝17KOのIBF世界ヘビー級王者、アンソニー・ジョシュア(イギリス)の2度目の防衛戦。舞台としてはこれ以上なく、報酬の面でも申し分なかっただろう。

 次に大橋会長が井上の挑戦者候補として狙いを定めたのが、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)だった。WBOとWBAスーパーのベルトを保持するフライ級王者だったが、階級を上げたロマゴンを追いかけて王座を返上。かつてライトフライ級時代にロマゴンに挑戦し、0−3判定負けながら最も苦しめたと評価される。最大のライバルと見る向きもある強豪で、井上にとって2階級制覇を果たしたオマール・ナルバエス(アルゼンチン)にも匹敵するようなビッグネームである。

 大橋会長によればエストラーダ陣営と交渉を持ち、先方の要求に合った条件も提示したが、交渉は不調に終わる。エストラーダは10月8日、右拳の負傷によるブランクからの1年1カ月ぶりの復帰戦に勝利したものの、再び右拳を負傷。河野陣営がオファーを受けたのは9月末というから、拳の負傷の影響は関係ないことになるが、いずれにしてもエストラーダの12月のリング登場は困難な状況になった。今後については、来春のコンセプシオン挑戦をもくろんでいるという情報、さらに階級を上げるという情報もあり、実際に10月の最新のWBOランキングでは、バンタム級4位にランクされた(WBA、WBCはスーパーフライ級のまま)。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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