羽生のループに、宇野のフリップ―― 五輪プレシーズンは「4回転の百花繚乱」

野口美恵

史上初の4回転ループを決めた羽生結弦を筆頭に、ハイレベルな戦いが繰り広げられそうだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 今季の男子フィギュアスケート界は、本格的なシーズンイン前から話題が尽きない。羽生結弦(ANA)が史上初の4回転ループを決めたほか、宇野昌磨(中京大)も自身がギネスに認定された4回転フリップを新プログラムに入れた。さらには、4回転ルッツと4回転フリップの両方を跳ぶ選手まで現れ、まさに「4回転の百花繚乱(りょうらん)」といえる時代がやってきたのだ。五輪のプレシーズンとなる今季、どんなハイレベルな争いが展開されるのだろうか。

新たな4回転時代

 やはり一番の注目は4回転。「新たな種類」を誰が入れるのか、そして「何本」入れるのか、に尽きるだろう。

 昨季までは4回転といえば、トウループかサルコウの選手がほとんど。そこへ彗星(すいせい)のごとく現れたのが、当時18歳の金博洋(中国)。史上2人目の4回転ルッツを、ショートプログラムもフリースケーティングもたやすく跳んだ。16年四大陸選手権では、「ショートで2本、フリーで4本」の4回転を成功させ、史上最高本数をマーク。今季も4回転の本数を武器にした戦略が予想される。

 この天才ジャンパーに触発された羽生は、新たな4回転としてループを導入。これまでのトウループ、サルコウと合わせて、「3種類計6本」に挑戦する。もしパーフェクトを達成すれば、自身が持つ世界記録の330.43点を超えるハイスコアも期待でき、向かうところ敵なしの勢いだ。

 世界王者のハビエル・フェルナンデス(スペイン)は、昨季同様に「2種類計5本」での戦い。質の高いトウループとサルコウで、確実にGOE(技の出来映え)の加点「+3」を狙い、種類を増やさずに高得点を目指す作戦だ。

フェルナンデスは昨季同様、「2種類計5本」の4回転で高得点を狙う 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 宇野は4月に史上初となる4回転フリップを成功。今季は、4回転トウループとフリップをプログラムに組入れ、「2種類、計5本」を計画。トップの戦いに食い込む。

 また本数という点では、金を上回る新人が現れた。17歳のネイサン・チェン(米国)だ。4回転ルッツとフリップを跳び分けるという、空前絶後のジャンパー。フリーでは「4種類5本」を予定する。合計「4種類7本」の4回転が決まれば、史上最多本数を塗り替えることになる。

 ソチ五輪銀メダリストであるパトリック・チャン(カナダ)は、4回転トウループ1種類での戦い。「1種類、計3本」は今季の“4回転バブル”のなかでは少なく聞こえるが、演技構成点の高さでベテランの戦い方を見せつけてくれるだろう。

 日本勢としては、田中刑事(倉敷芸術科学大)が4回転サルコウ2本、無良崇人(洋菓子のヒロタ)は4回転トウループとサルコウの2種類を、それぞれフリーに入れるなど、やはり本数を増やしており、トップグループ争いに食い込んできそうだ。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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