羽生のループに、宇野のフリップ―― 五輪プレシーズンは「4回転の百花繚乱」
次なる300点超えは
300点超えに近づいている宇野昌磨。GOEや演技構成点の評価を伸ばせれば、今季中の到達も十分にありうる 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
昨季の羽生とフェルナンデスの「300点超え」を支えているのは、4回転の本数よりも、GOEの加点と、PCS(演技構成点)。特にGOEは、ほとんどのジャンプやステップで「+3」がずらりと並んだ。ショートでは+10点以上、フリーでは+20点以上を獲得しており、これが300点超えの源なのだ。
そういう意味では、4回転をバンバン跳ぶ若手が増えつつあるが、それだけでは高得点や優勝は狙えない。ジャンプの質やスケーティングの基礎が卓越している選手こそが、300点を超える可能性を秘めていることになる。
今300点に近づいているのは、10月に行われたジャパンオープン(編注:同大会はフリーのみで争われる)で、198.55点をマークした宇野。GOEや演技構成点の評価を少しでも伸ばせば、今季中の300点超えが可能だろう。また自己ベスト295.27点のチャンは今季、滑りの美しさがより磨かれており、300点に最も近い位置にいる。さらに自己ベスト289.83点の金は、4回転の本数は十分なので、スケーティング力とジャンプの質を伸ばすかどうかで300点超えが決まる。
五輪にむけての序奏
今季やっておくべきことは、五輪シーズンの勝負曲へとつながる曲選び。羽生は、ショートでプリンスのロックを選択した 【写真:坂本清】
まだ五輪シーズンの方向性が決まっていない選手の場合は、新しい表現力を磨いたり、今までとは違う曲調を試したりする最後のチャンス。一方、自分の持ち味を見極めている選手の場合は、得意分野の曲を準備し、今季のうちに評価を高めておきたいところだ。プログラム選びを見ると、五輪シーズンへの作戦が見え隠れする。
羽生は、ショートでソチ五輪シーズンの『パリの散歩道』の方向性に戻し、ロック調のプリンスの曲を選択。自身が楽しく踊れるノリの良い曲調にした。フリーは久石譲作曲の美しいメロディの曲で、やはり心地よく気持ちを乗せて滑ることを重視した。今季は4回転で「ショート2本、フリー4本」という挑戦をするため、表現面では得意の方向性を選んだといえる。
宇野は以前から「アップテンポは苦手」と話しており、昨季のうちにショートでビートの速い曲に挑戦。新たな持ち味を模索した。逆に今季はもともと得意とする、叙情的なバイオリン曲をショートに選んだ。フリーはアルゼンチンタンゴで、今まで以上に大人びた表現を目指す。どちらも宇野の魅力をより引き出す選曲だ。五輪プレシーズンのうちに、自己ベストの演技構成点をたたき出していく方向性だろう。
フェルナンデスは、ショートで『マラゲーニャ』を継続。「スペイン人として、より本格的なフラメンコの表現を追求したい」と話し、最高の芸術作品になる手応えを感じている様子。またコーチのブライアン・オーサーは、「すでに世界選手権2連覇のハビエルは、今季は少し気持ちに余裕を持たせるシーズンにしたい」と言い、フリーは得意分野のエルビス・プレスリーメドレーをチョイスした。五輪シーズンに向けて、密かにパワーをためていく。
このほかチャンは、自身のために作曲されたインストゥルメンタル曲を準備。チャンの美しいスケーティングを最大限に引き出す曲で、かつてない高い演技構成点を見せつけてくれることだろう。
それぞれの選手が、違う強みをぶつけあう今季。華やかな4回転バトルに固唾(かたず)をのみつつ、ベテランの滑りの美しさに酔いしれる、そんなぜいたくなシーズンになりそうだ。