前代未聞の大誤審「見てなかった事件」 カネシゲタカシの『ぷぷぷぷプロ野球』

カネシゲタカシ

「ミスはあるもの」として思考の転換を

CSファイナルステージへ進出を決め、ファンの声援に応えるDeNAのラミレス監督(左端)と選手たち 【写真は共同】

 CSは外野の審判を含め6人体制で執り行われるにもかかわらず、こんなことが起こってしまうとは……。

 そもそも「大事な試合だから審判を増やす」という行為自体が、僕は昔から納得がいっていません。「それ以外の試合は不完全な体制でやっています」ということを証言しているようなものですから。

 いや、何も人間のすることに完璧を求めているわけではないので、不完全なら不完全で良いのです。ファームの試合などは二塁塁審を除いた審判3人制で行われるわけですし、そこに異議はありません。「可能な限りの万全」ということで良いのです。

 問題は「不完全であるにもかかわらず、それを認めない」という姿勢です。

 公認野球規則には「審判員の判断に基づく裁定は最終のもの」とあり、建前として「誤審はない」という前提のもとルールが構築されています(ルールの適用ミスだけはあり得るものとされている)。

 このように「誤審は存在しない」という世界では、審判は「誤審」を「誤審じゃない」と言い張ることしかできません。「見ていなかった」も「見ていた」と強弁しなくてはなりません。

 これは時代遅れのルールと言わざるを得ないでしょう。

 以前も当コラムで言いましたが、鮮明な映像によるリプレー検証が容易になった現代プロ野球では、観衆の目が審判の目を完全に追い越してしまっている状態です。にもかかわらず「誰もがミスだと分かっていても、それを認めてはいけない」という縛りのもとで審判員は試合運営を任されるわけです。

『裸の王様』に例えれば「裸だとバレて観衆が大騒ぎしているにもかかわらず、なお服を着ているかのように堂々と振る舞え」ということ。これは何よりも審判員にとってキツイはず。

 ぜひ、リプレー検証の積極的な導入を。

「ミスはない。だから認めない」という前提から「ミスはある。だったらどうする」という思考への転換が、いま必要です。

もし巨人が試合をひっくり返していたら……

 話を「ごめん、見てなかった事件」に戻しましょう。
 
 今年はコリジョンルール導入による混乱に始まり、審判関連のドタバタが目立ったシーズンでしたが、今回の一件はその集大成のような出来事でした。

 三上投手が集中を切らしたくなかったのか何ら抗議をしなかったこと、またバッターが凡退しそのままDeNAが勝利したことで、この件はうやむやになった感があります。

 しかし、もしあそこで巨人が試合をひっくり返していたら。これは「世紀の大誤審」と言われる事態に発展していたでしょう。テレビ解説の中畑清氏、原辰徳氏らも「アウトに見える」と言ったビッグプレーですから。

 僕が球場観戦したCS第3戦では、試合前にその塁審の名前がコールされた瞬間、DeNAファンから激しいブーイングが巻き起こりました。「“怠慢”には“タイマン”を」と言わんばかりの怒り爆発。これでは双方が不幸になるだけ……。

 人間は間違う生き物です。間違うことが恥ではありません。間違いを認めないことが恥なのです。

 そんな当たり前の哲学に見合ったルールの導入を、ぜひお願いしたいと思います。野球が未来に遺せるプロスポーツであらんために。

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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