快進撃の鹿児島を悩ませるスタジアム問題 J2・J3漫遊記 鹿児島ユナイテッドFC前編
手腕を発揮する指揮官と現場を信頼する社長
昨年から鹿児島を率いる浅野監督。「現場の一切を任せてくれている」ことに感謝している 【宇都宮徹壱】
「2つのクラブが統合した、ということは聞いていました。それでも僕が来る前(14年)はJFLで3位という結果を残していましたし、選手たちからも学ぶ姿勢、プロとしてやっていきたいという思いのようなものがすごく感じられました。僕としては、何か新しいものを作るよりも、今あるベースを変えずに積み上げていきながら、少しずつマイナーチェンジしていけばいい。ですから(就任にあたり)難しさはまったく感じなかったですね」
11年にヘッドコーチから昇格で福岡を指揮したことはあったし、なでしこリーグの伊賀FCくノ一の監督に就任したこともあった。しかし、第1種のチームをいちから率いるのは今回が初めて。その手腕を選手はどのように感じているのだろうか。FCK立ち上げからの古参メンバーで、県リーグからJ3までクラブとともに駆け上がってきた田上裕は語る。
「選手を叱る、褒める、メリハリがはっきりしていますね。場を和ませたり、締める時は締めたり、そこのコントロールが絶妙で僕らはうまく操られている感じです(笑)。でも基本的には真面目で、一生懸命で、用意周到。特に次の試合に向けた準備が、ものすごく綿密なんですよ。ですから僕らも『この人のために勝ちたい!』という気持ちでプレーしているし、それが今の成績につながっているんだと思います」
スタッフも選手も県内出身者が多い中、東京から単身赴任している浅野だが、今のところ鹿児島での仕事には一定の手応えと満足感があるという。指導者としての手腕を存分に発揮できる理由として、当人が真っ先に挙げていたのが「社長が現場の一切を任せてくれていること」。この点について、フロント側はどう考えているのだろうか。徳重は「現役時代の浅野さんは私のヒーローでしたから、口出しなんてできないですよ。実は監督の電話番号も知らないくらいで」と笑いながら、こう続ける。
「もちろん、お金に関しては私が全責任を負っていますけれど、現場に関しては一線を引くように心掛けています。確かに現状では、練習場は固定ではないし、クラブハウスもない。そんな中、現場は本当によくやってくれていると感謝していますよ」
鴨池の改修とJ2ライセンス交付の行方
ホームスタジアムの鴨池は4年後の国体に向けて改修中。バックスタンドも工事に入った 【宇都宮徹壱】
鹿児島のJ2昇格の可能性に暗雲をもたらしているのは、皮肉にも「聖地・鴨池」であった。もともと72年の「太陽国体」のメーン会場として建設された鴨池であったが、2020年に開催される「燃ゆる感動かごしま国体」に向けて、全面改修されることになった。問題は「全面改修」とはいいながら、そのプロセスが部分改修だったことだ。そういえば鳥取戦が行われた日は、これから改修工事に入るバックスタンドは封鎖されていた。
「今年はバックスタンドを、来年はメーンスタンドが全面改修となるようです。また、正面玄関の前に貴賓席控室のタワーが作られるのも来年と聞いています。屋根がかかるのは、全席の3分の1には全然足りない。大型スクリーンやLED照明も検討されているそうです」
改修のプロセスに関して、徳重が県の担当者から聞いている情報は、おおよそこの程度であるという。老朽化が著しい鴨池が、新しく生まれ変わること自体は、もちろん悪い話ではない。問題は、改修中のスタジアムでのホームゲームについて、Jリーグがどのような判定を下すかである。この点について、徳重には苦い経験があった。
「去年、鴨池の芝生が全面的に張り替えになったんです。そのためJFL1年目(14年)、ウチは百年構想クラブに認定されず、3位だったのに昇格できませんでした。鴨池はバックスタンドが5000席、メーンが7000席です。来季、メーンが改修となると(J2ライセンスの規定である)1万人収容はどう考えても無理です。もちろん、こちらの事情はJリーグに伝えてありますが、そこがどう判断されるかでしょうね」
結果は、徳重が恐れたとおりになった。9月28日、Jリーグは鹿児島に対して、J2ライセンスを交付しないことを発表。「来季はメーンスタンドが全面使用できず、サイドスタンドもJリーグがカウント外としている芝生席のため、入場可能数は5386人となることから基準を充足しないと判断した」というのがJリーグ側の説明である。鹿児島の不交付判定は、J1・J2ライセンス制度が始まって以来、初めての事例となった。
<後編につづく。文中敬称略>