タレント集団が酷暑のインドで得た財産 U-17W杯へ、見せたクオリティーと可能性

川端暁彦

心と体の準備ができていなかったイラク戦

イラク戦はコンディションが整わず、2−4で逆転負けを喫した 【佐藤博之】

 準々決勝までの「世界切符決定戦」を経て、準決勝からは「アジア王者決定戦」である……。そう言葉にしてしまうと簡単なのだが、言うほど簡単ではない。森山監督は準決勝を前にして「心と体の準備をできるかどうか」と語っていたが、これは逆に言うと、心の面でも体の面でも難しい戦いが予想されていたということである。

 UAEとの激闘を終えて、選手・監督から共通して聞かれた言葉は「ホッとした」だった。「負けたらチーム解散」という心理的プレッシャーにさらされる中で、ギリギリの試合をしたのだから当然の感覚だろう。ただ、一度ホッとした後に、もう一度気持ちを上げていくのは、大人でも簡単ではない。指揮官は「準々決勝前と同じような気持ちで練習しよう」と呼び掛けていたが、さすがにそのテンションまでには至らなかった。ただ、これはやむを得ない部分でもある。

 体の面でも難しさはあった。中2日での連戦。しかも雨季のために毎試合必ず雨中の試合を余儀なくされる中で、フィジカルコンディションの低下は明らかだった。2選手が負傷で帰国し、久保もUAE戦で負傷。準々決勝前々日まで別メニューでの調整を余儀なくされていた。そして冒頭に述べたように、この準決勝はインドに来てから最も暑さを感じる気候で、暑熱の影響も避けようがなかった。

連戦の消耗から後半に逆転負け

 日本のゲームプランは、「積極的にボールを動かして相手を疲れさせよう」(森山監督)というもの。亀のように守りを固めるUAEとは対照的に、イラクが前線から積極的にボールを奪いにくるチームであることも受けての策だった。相手のプレッシャーをいなしながら体力を温存して、「後半勝負」(同監督)。練習から明確にその意識付けを行っていた。

 だが、イラクの圧力を回避することはできなかった。「前半から自分たちのリズムができなかった」と指揮官が唇をかんだように、ボールは思ったように動かない。それでも内容に反して前半は2−1と日本のリード。幸運を味方に付けたかとも思える流れだったが、そう甘くはなかった。後半開始からの攻勢と次々に作った決定機でゴールが生まれなかったことが大きな転換点だった。風下に立って相手の圧力にさらされる中、連戦の消耗だろう。全体に活動量も守備の強度も低下していく。キックミスの頻発が、その流れをさらに悪化させた。

 対するイラクは猛烈なスピリットを感じさせるプレーぶり。「なりふり構わずやってくる強さがあった」(森山監督)。固定メンバーで戦うチームゆえに止まると思っていた足は止まらず、逆に鋭いカウンターから日本守備陣に何度も裏返しの対応を強いることに。「いままでやって来た中で一番の個」と森山監督が評するFWモハメド・タムードは特に傑出しており、二つのPKを奪われるなど、3失点。合計2−4のスコアで、若き日本のアジア制覇への道は断たれることとなった。

2週間の戦いを財産に

グループステージで4得点を挙げた棚橋。この世代は才能豊かなタレントがそろう(写真は6月) 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 日本のこの世代には豊かなタレントがいる。「主力級の力は、例年にないレベル」と評したのは木村浩吉技術委員だったが、確かにそうだろう。久保については語り尽くされているが、決して彼のチームというわけでもない。菅原と瀬古の両DF、福岡慎平(京都サンガF.C.U−18)と平川怜(FC東京U−18)の両ボランチ、個性派のそろった攻撃陣など、それぞれがクオリティーの高さと可能性を示してくれた大会だった。

 だからここは、そんな彼らが「まだまだ足りない」と突きつけられるような敗戦を喫したことをポジティブに捉えたい。心も技も体も発展途上の年代である。負けることがあるのは当たり前で、問題は先々に生かせるかどうか。主将の福岡は「世界で借りを返したい」と短く結んだが、これはメンバーの総意だろう。

 世界大会も同じくインドでの開催となる。雨も風も光も学び取った2週間の戦いを財産にしつつ、生まれ変わるのみ。ここからの1年でどこまで伸びて、変われるか。17年秋、日本のニューミレニアム世代は“U−17日本代表”として世界への挑戦を始めることになる。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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