武豊 独占インタビュー第1回 過去から現在まで振り返る30年の歴史

スポーツナビ

「僕は帰ってきました」に込められた意味

――では、騎手人生においてターニングポイントになったレース、競走馬というと、思い浮かぶものはなんでしょうか?

どうなんですかね、自分ではそういうことは決めてはいないですけど、結果的に人からよく言われるものがありますから、そのレースは大きかったのかなと思うものはいくつかあります。例えば、オグリキャップの引退レースは大きなレースだったなと思います。僕自身もまだ若かったですからね。もちろんスーパークリークでの初めてのGI制覇があったり、スペシャルウィークでダービーを勝ったのも大きかったですね。

――最近のレースで言うと、やはり競馬ファンに大きな印象として残っているのがキズナで制したダービーだったと思います。武騎手にとってのあの1勝の意味、大きさを教えていただけますか?

あの当時は本当にすごい逆境の中でしたから、そこでああいうチャンスがめぐってきて、自分にプレッシャーをかけているわけじゃないですけど、自分が試されているような気になりましたね。そこで「ようし!」っていう気持ちになりましたね。

キズナで制したダービー5勝目、武豊騎手にとっても大きな1勝だった 【写真:中原義史】

――あのダービーは、キズナは皐月賞に出走していないにも関わらず1番人気に支持されていました。ファンの期待感もすごく大きかったと思います。

そうなんですよね。印は決して◎が並んでいるわけでもなかったので3番人気くらいかなと思っていました。エピファネイア、ロゴタイプもいましたから。

――はい、僕も専門紙の印からエピファネイア、ロゴタイプ、キズナの順番かなと思っていました。

それが前日から1番人気でしたからね。ただ、それは本当に多くのファンの方がキズナが勝つことを願ってくれているのかなと思いましたし、自分の中でも「これは大きいな」と思いましたね。

――実際にレースを勝ち、その後に場内インタビューで「僕は帰ってきました」という言葉が武騎手の口から出ました。でも、実はその前年秋にサダムパテックでマイルチャンピオンシップを勝っていたので、G1勝利自体が随分と久しぶりというわけではありませんでした。それでいて「帰ってきました」という言葉はどういう思いから出たのでしょうか?

あれはもちろん用意していた言葉ではないんですが、ただ、ダービーとしてのウイニングランですよね、東京競馬場で。やっぱり「あれ? 久しぶりだな」と自分でも思ったんですよ。ダービーはディープインパクト以来だったんですけど、「なんかこの感覚は久しぶりだなぁ」と思って表彰式に出て、インタビューでお立ち台に上った時に、ファンの方からの「お帰りー!」という声がすごく多かったんです。それで思わず「帰ってきました」と答えていましたね。

――武騎手の30年の歴史の中でも思い出深い名シーンになりましたね。

そうですね、嬉しかったですね。あの時はなかなかうまくいかない時期でしたから。でも、このままじゃ絶対にダメだという気持ちも強かったですからね。

絶対に自分だけは流されちゃいけない

――そのうまくいかない時期からのカムバックの要因は肉体的なものが大きかったのか、精神的なものなのか、あるいはその全てなのか、どのように捉えていますか?

色々とあると思います。でも、それは全て自分のことですからね、別に周りや人のせいでもありませんから。その中で自分が頑張るしかない、というだけのことですからね。もちろんケガの影響も多少はあったと思いますけど、なかなか結果を出し続けないと難しい世界ですから、改めてというか、初めてそういうことを痛感したかもしれないです。

武豊騎手のように40代になっても最前線で活躍できる秘訣は? 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

――同じ40代のビジネスマンや他の職業の方たちに向けて、40代でも第一線にカムバックできる、最前線で活躍できる秘訣、アドバイスなどはありますか?

「アイツはもうダメなんじゃないか」とか、どんな世界でもそういう空気、雰囲気になる時があるじゃないですか。その時に「自分だけはそこに流されちゃいけないな」とずっと思っていましたね。周りがそう思うのは仕方ないなとは思っていましたけど、自分がそう思ってしまったら本当にそうなってしまうと思いましたから、絶対に自分だけは流されちゃいけないと意識的に思っていましたね。強がることは全くなかったんですけど、自分が諦めムードに乗っちゃったらダメだと思っていました。

<第2回(9月6日掲載予定)に続く>

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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会期:2016年8月31日(水)〜9月6日(火)
会場:新潟伊勢丹7階 アートホール
住所:新潟県新潟市中央区八千代1-6-1
※終了

■愛知会場
会期:2016年11月23日(水・祝)〜11月28日(月)
会場:名古屋栄三越7階 催物会場
住所:愛知県名古屋市中区栄3−5−1
※終了

■福岡会場
会期:2017年1月2日(月・祝)〜1月9日(月・祝)
会場:博多大丸 福岡天神
住所:福岡県福岡市中央区天神1-4-1
※終了

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