現地紙はリオ五輪をどう見たか スラム街出身の英雄に感じる“遺産”

サンパウロ新聞

白けた市民 盛り上がり欠く

五輪マークの奥に広がるのはファベーラと呼ばれるスラム街。南米初の五輪がもたらした意義とは? 【Getty Images】

 17日間のスポーツの祭典、リオデジャネイロ五輪が現地時間21日に閉幕した。心配されたテロも大きな事件、事故も起こらず、ジカ熱やデング熱の感染も報告はなく、関係者は胸をなでおろしている。

 しかし、会場に入っても、テレビを見ていても空席の目立つ試合が多かった。ブラジル人に観客が少ないことを問うと「興味がないからでしょう。素晴らしい試合を見ることができたらそれでいいじゃないの?」と意に介さない。会場に空席が目立ち、興行的に赤字であっても、他人事。マスコミも世界に向けて試合が放送されれば、観客が少なくても問題視しない。要するに、観客の少ないスポーツは人気がないから仕方ない、と割り切ってしまう。テレビ放映ができ、記者が原稿を書ければ、大会は成功したことになる。

 そのためか、開幕直前からブラジルのテレビ、新聞などのマスコミは五輪一色となった。斬新でクリエイティブな開会式が、世界各国から称賛を浴びたことでマスコミは勢いづき、開幕前の会場やインフラ整備の不備への批判は影を潜め、五輪競技の報道一色となった。

 とはいえ、国民の盛り上がりはなく、リオの街角では警備の軍隊や警官ばかりが目立った。外国人観光客が騒ぐ姿は見られたものの、市民は白け、サンパウロでは景気悪化に伴う失業者の増加で労働組合が連日のように小規模のデモを繰り返す、普段と変わりのない生活に終始した。

五輪施設は野ざらしになる運命

 閉会式でもマスコミは、南米初の五輪開催の成功を大きく報じ、ブラジル式の「結果良ければすべて良し」を追認した形で反省の弁は一言もなかった。

 誰も口にしないが、これから問題は噴出する。選手村をはじめ主要会場となったバーハ地区、ラグビーや乗馬、ホッケー、女子バスケットボールなどの会場となったデオドロ地区といった市の中心部から離れた場所が、どのように使われるのか。選手団やマスコミは宿泊地からこれらの会場を往復するのに渋滞がひどく、当初の予定以上に時間を費やした。専用レーンを設置していたにもかかわらず、である。

 また、大会開始前から予算が底をつき、会場やインフラ整備の資金がなくなっていた。直前には、リオ州の公務員の給与遅配が表面化し、警官をはじめ職員がストライキをする騒ぎまで起こって、運営面を心配する声も上がったほどだ。

 こうした資金不足から中途半端なインフラ整備は当然ストップする。そうなれば、バーハ地区への交通の便は改善されず、立派な施設は使われることなく、野ざらしになることは目に見えている。2年前のサッカーワールドカップで各地に建設されたサッカー場が資金不足で運営管理費が捻出できず、荒れ放題になっているのと同じことが起こるだろう。借金だけが残り、数年もすると荒れ果てた施設が遺産として残される。五輪を当て込んで同地域に多くのホテルが新設されたが、いくら世界屈指の国際観光地と言っても、同じ憂き目に遭うだろう。

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著者プロフィール

1946年に創刊したブラジル・サンパウロの邦字新聞(週5回発行)。日刊の邦字新聞としては海外最大規模を誇る。日系社会の言論界をリードし、さらには文化事業で日本との架け橋を担う。

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