メダル期待も勝てなかった要因は? 男子20キロ競歩を識者が解説

石井安里

男子20キロ競歩で7位入賞を果たした松永大介(中央)。メダルはならなかったが、東京への希望を感じさせる歩きだった 【Getty Images】

 リオデジャネイロ五輪の陸上競技は12日に開幕し、初日の男子20キロ競歩に高橋英輝(富士通)、藤沢勇(ALSOK)、松永大介(東洋大)の3選手が出場した。今季の世界ランキングで1〜3位を占めていた日本勢は悲願のメダル獲得はならなかったが、五輪初出場の松永が1時間20分22秒で7位に入り、同種目で史上初の入賞。藤沢は1時間22分03秒で21位、高橋は1時間24分59秒で42位だった。優勝は王鎮(中国)で1時間19分14秒、2位にも同じ中国の蔡沢林が続いた。

 レースのポイントや日本人選手の今後の課題について、2003年パリ世界選手権20キロ競歩代表で、明治大競走部コーチの吉澤永一氏に聞いた。

中国勢に力の差を見せつけられた

――まずは、レースをご覧になった感想をお聞かせください。

 20キロのレースでは、15キロあたりまで集団で進み、ラスト5キロの勝負になることが多いのですが、今回も予想通りの展開でした。15キロ過ぎからレースが動くことは、どの選手も想定していたと思います。高橋選手と藤沢選手はコンディションが整わなかったのか、詳しい状況は分かりませんが、そこまで集団で粘れずに遅れてしまったのが残念でした。日本勢はまだメダルを狙うレベルになく、「入賞できれば……」というのが現実的なところでしたから、松永選手の入賞で日本の競歩界は救われたと思います。

――前半はトム・ボスワース選手(イギリス)が積極的に飛び出しましたが、17キロ付近で中国の王選手、蔡選手が仕掛けたことで一気にレースが動きました。

 1人で先頭を歩くと審判の目に留まりやすくなるので、フォームに自信がないとできません。ボスワース選手は周囲を気にせず、自分なりのペースで歩こうと前に出たのですが、最後まで押し切れませんでしたね。他の選手たちもボスワース選手とそんなに差が開かず、ずっと見える位置にいたので、終盤に落ちてきたところを捕らえるつもりでいたのだと思います。

 前半から1キロ4分程度のペースで進んでいましたが、中国の2人は17キロ以降、3分45秒くらいまで上げました。1キロにつき15秒上がるのはすごく大きいです。ペース自体は、日本人選手でも十分に対応できるものでした。ただ、最後の最後で一気に上げられる力がなかったということです。今大会では多くの選手が中国勢をマークしていたと思いますが、王選手と蔡選手にみんなあっさりと置いて行かれたところに、力の差を感じました。

松永は思い切りが足りなかった

――7位に入った松永選手のレースはいかがでしたか?

 前半から良い位置にいました。ただ、集団の前の方での動きを見ていて、行くのならもっと思い切って出てしまった方がいいと思いました。その方が、自分のリズムで歩くことができますしね。松永選手は何度か前に行ってはいましたが、国内でのレースのような、彼本来の思い切りの良さを見たかったです。

 レース後、本人は「気持ちが舞い上がってしまい、無駄な動きが多くなった」とコメントしていました。実際にはきつかったかもしれませんし、歩型の注意を受けたことで前に出られなかったのかもしれませんが、無駄な動きというよりは、思い切りが足りなかったように感じます。

――21歳と若い松永選手が20キロ競歩で史上初の五輪入賞を果たしたことで、来年以降の世界選手権や2020年東京五輪に向けて、希望が持てる結果になったのでは?

 そうですね。松永選手はフォームも問題ありませんし、スピードがあります。彼は一昨年の世界ジュニア選手権1万メートル競歩で金メダル、昨年のユニバーシアード20キロ競歩で銅メダルを獲得するなど、世界大会での実績があります。これからもっと海外でのレース経験を積み、自分が主導権を握る展開に慣れていけば、かなり期待できると思います。

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著者プロフィール

静岡県出身。東洋大学社会学部在学中から、陸上競技専門誌に執筆を始める。卒業後8年間、大学勤務の傍ら陸上競技の執筆活動を続けた後、フリーライターに。中学生から社会人まで各世代の選手の取材、記録・データ関係記事を執筆。著書に『魂の走り』(埼玉新聞社)

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