追悼・千代の富士 正解へ最短距離で生き抜いた稀代の大横綱
「ぶつかっていけば何が足りないか分かる」
1990年の3月場所、すくい投げで花ノ国を下し1000勝目を達成した 【写真は共同】
「横綱の胸にぶつかっていけば、自分には何が足りないのかが分かるはず。大きな壁は日々、少しずつ手ごたえを感じながら突き破っていくものなんだよ」
自身が出稽古で苦手を克服した経験も踏まえ、昭和の大横綱には賜盃に届きそうで届かない大関が、綱をつかむための“最短距離”が手に取るように見えていたのかもしれない。それは九重親方への取材を通しても小生が感じることでもあった。
何もかもお見通しだった“ウルフ”の眼力
まな弟子の千代鳳は師匠の思い出について、こんなことを言っていた。
「一番うれしかったことは、小結の場所で横綱を倒したとき『俺が言ったとおりにやれば、横綱にも勝てるんだよ』と笑いながら話してくれたことです。あの笑顔は忘れられません」
“ウルフ”の眼力にかかれば、何もかもがお見通しだったのである。
「これからは、言われたことを思い出しながらやっていきたい」と千代鳳。自分には何が足りなくて、何をすれば結果を残せるのか。大横綱にしてたたき上げの関取を多く育てた名伯楽の教えは、確実に伝授されている。