サンウルブズ、1年目の総括 もがきながら戦って見えてきたもの

斉藤健仁

準備不足が響いたセットプレー

ラインアウトでは強豪国の高さに苦戦した 【写真:Haruhiko Otsuka/アフロ】

 一方で、アタックに注力するあまり、ディフェンスはおろそかになってしまったことは否めない。若い選手が多かったこともあり、タックル成功率は18チーム最下位で、79.4%と唯一の70%台だった。「ディフェンスは、組織と個人の両方に原因がある場合がある」とハメットHCが振り返ったが、「(スーパーラグビーは)フィジカルもスピードも2倍違う」(田邉コーチ)相手に、個々のスキルやフィットネス不足で止められず、組織ディフェンスも成熟することはなかった。

 セットプレーも課題だった。スクラムは、専門コーチ不在により、ハメットHCとFW陣が話し合いながら、試行錯誤し、整備していった。シーズンが深まるにつれて、相手に応じて試合中に修正することができるようになり、最終的にはほかのチームに劣らず、成功率は92%だった。PR稲垣啓太、垣永真之介、唯一の大学生選手だった具智元ら若きPR陣には大きな財産となった

 最終戦は良かったものの、ラインアウトは一番の課題だった。成功率76.8%はワーストで、唯一の70%台だった。38歳で夢の舞台に立った大野は「最初はフェイントを入れてずらして取ろうとしたが、トップリーグではそれで取れても、スーパーラグビーではカットされた。昨年、日本代表でやっていたようにテンポを上げて投げるようになったら確率が上がった」。準備不足、経験不足が響いた形となった。

SH茂野らが日本代表でも活躍

サンウルブズ、日本代表で印象的な活躍を見せた茂野 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 それでも、多くの選手がスーパーラグビーを通して高いレベルを体験したことは、日本ラグビー界にとって大きな意味を持つ。試合に出場した選手は38選手で、31選手が初キャップとなり、その内、26人が日本人選手で、3人は3年居住をクリアすれば日本代表になれる資格を持っている外国人選手だった。

 かつては無理と思われていた日本人のスーパーラグビー挑戦は、2013年にSH田中史朗(ハイランダーズ)が、その扉を開けたが、今年は実に26人が誕生した。また個々の選手を見ても、CTB立川は攻守にわたるプレーの精度、安定性が増し、リーダーとしてチームを鼓舞した。またPR稲垣は、ワールドクラスになれるポテンシャルを見せ、2年目のLO小瀧尚弘も十分に通用していた。またハメットHCが「トップリーグ(NZのITM杯)でプレーしていたから」と、自ら招集したSH茂野海人は、2019年の日本代表の中心選手となれる存在感を見せた。

 6月の日本代表戦は、ハメットHC以下、サンウルブズの選手が中軸となった。アウェーでカナダに逆転勝ち、スコットランドには2連敗したが、2戦目は十分に勝てる内容だった。HO堀江主将が「サンウルブズの経験がプラスになっている。サンウルブズのメンバーはコンタクトで負けていなかった。(日本代表の)強化になっている」と言えば、LO大野も「第2戦でスコットランドに勝てるところまでいったのはサンウルブズの経験が生きているから」と捉えていた。

 それでも、多くの選手はサンウルブズ、日本代表だけでなく、トップリーグと3つのカテゴリーを掛け持ちし、このまま2019年まで休みなく戦っていくのは困難であろう。日本代表選手はスーパーラグビーやトップリーグを数試合ずつ休ませたり、年間を通して試合数を制限したりするなど、選手たちの体と心のケアも必要であろう。

「ゼロからではなく、今年をベースに」

1年目の経験を生かして、来季のスタートを切ることが求められている 【斉藤健仁】

 開幕前、スーパーラグビーの試合は日本のファンに受け入れられるのか……という不安もあった。選手たちの頑張りもあり、秩父宮ラグビー場で行われたホーム5試合の平均は1万7246人と、大いに盛り上がりを見せた。手で狼のポーズを作りで雄叫びを上げるパフォーマンスもすっかり定着した。ハメットHCも「サンウルブズは最後まで戦い抜くチームです。そしてトライをたくさん取り、エキサイティングな展開で、人々が応援したくなるチームだったと思います」と胸を張った。

 ただ13敗、カンファレンス、南アフリカグループ、そして全体でも最下位という現実は受け入れなければならない。2年目は南アフリカだけでなく、ニュージーランドの5チームと戦う。アルゼンチンへの遠征も待っている。相手もよりサンウルブズを分析し、今年よりも過酷なシーズンになることは間違いない。

 HO堀江主将は「早くコーチ陣は決めてほしい。また2月の始動の前に、顔合わせをしてほしい」と改善点を挙げつつ、来シーズンに向けて「選手一人ひとりが、経験したことを次につなげるか。サンウルブズに関わった人たち、選手だけでなく、日本協会も運営サイドも、ゼロから(スタート)するのではなく、今年をベースに上に上がっていきたい」と締めくくった。

 日本で開催されるワールドカップまで残り3年。日本協会や運営サイドは、選手にストレスを与えず、なるべくプレーしやすい環境作りと準備に注力し、選手はトップリーグで戦いながら、スーパーラグビーで通用するようスキル、フィジカルを上げつつ、来年に備えてほしい。そして、2年目のスーパーラグビーで、1年目より進化した姿を見せることが、2019年への近道であろう。2年目のサンウルブズは日本代表のヘッドコーチに内定しており、ハイランダーズで優勝経験もあるジェイミー・ジョセフ氏が自ら指揮を執ってほしいと願うばかりだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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