箱根駅伝からトライアスロンで五輪金へ 転向3カ月で強化指定、異例の新星登場

スポーツナビ

支えになった恩師の言葉

青山学院大で師事した原監督(左端)には今でも相談に乗ってもらうことがあるという 【写真は共同】

 トライアスロンへの転身は、容易な決断ではなかった。小さい頃からヒーローに憧れていた大谷。陸上を始めてからも、五輪に出てスター選手になる夢を描いていた。しかし、青山学院大4年になり、限界を感じるようになる。大きかったのは、同期のエース・出岐雄大の存在だ。同じ練習をしているのに伸び率がまったく違った。

 出岐には勝てない、陸上ではスター選手になれない――そんな思いが去来する中、水泳経験などが生かせるトライアスロン転向も視野に入れるようになったのはこの頃だ。ただ、この時点では陸上を辞める勇気がなかった。大谷は真面目な表情でこう述懐する。

「種目を変えることの格好悪さがずっとありました。でも、『俺は陸上に才能がない』ということに、その時は気付かないようにしていたんです。『俺なら才能がなくても努力でカバーできる』と。そう思って実業団に進んで、ずっとそういう気持ちでやっていましたけれど、実業団に行って上には上がいるんだなというのを感じてしまったんです」

 社会人で3年間ランナーを続けたが、五輪への思いを捨て切れず、より可能性を感じたトライアスロンへの転向を決意。周囲の反応は冷ややかだったが、一番の恩人・原監督の「面白い。お前が東京五輪に出るイメージを俺は持てる」との一言が背中を押した。“格好悪い”競技転向から、すっかり振り切れた。「あとはもう自分の結果次第、自分の取り組み次第だ」。

「出るからには1番を目指す」

東京五輪への第一歩となるデビュー戦では「出るからには1番を目指す」と気合十分だ 【スポーツナビ】

 認定記録会から3カ月が経ち、“金メダル最短ルート”を目指す大谷は、ベースとなる絶対的なスピードを身に付けるべく、量より質を重視して自己流トレーニングを積んでいる。体型も細身のランナー体型からしっかりと筋肉がつき、体重は実業団時代から2キロ増えて63キロになった。陸上とは異なりスイム・バイク・ランの3種目をバランスよく鍛えなければならない難しさはあるが、手探りだからこそ「自分で発見していくから楽しさがある」と面白さも見出している。

 東京五輪への第一歩となる10日の大阪トライアスロン舞洲大会には、五輪で採用される距離の半分で競うスプリント・ディスタンス(スイム0.75キロ、バイク20キロ、ラン5キロ)に出場する。「そんなに甘くはない」と自らに釘を打ちながらも「出るからには1番を目指す」と闘志は十分だ。

 五輪への道は険しいのは間違いない。選考基準は決まっていないが、国際大会でポイントを重ねてワールドカップに出場し、さらに上位のトライアスロンシリーズや世界選手権の出場権を獲得する必要がある。JTU五輪対策チームU15リーダーの蓮沼哲哉氏も「リオが終わって、すぐにでもコツコツ(ポイントを)貯めて、3、4年後に枠を獲得していかないと」と説明する。大谷自身も「まずは結果が出ないと意味がない。結果ありきで、練習をしっかりした上での話」と慢心はない。

 屈託ない笑顔で語る自然体の25歳が、東京五輪の金メダルで、そしてその生き様で、従来のアスリートの概念を打ち破ろうとしている。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント