箱根駅伝からトライアスロンで五輪金へ 転向3カ月で強化指定、異例の新星登場
支えになった恩師の言葉
出岐には勝てない、陸上ではスター選手になれない――そんな思いが去来する中、水泳経験などが生かせるトライアスロン転向も視野に入れるようになったのはこの頃だ。ただ、この時点では陸上を辞める勇気がなかった。大谷は真面目な表情でこう述懐する。
「種目を変えることの格好悪さがずっとありました。でも、『俺は陸上に才能がない』ということに、その時は気付かないようにしていたんです。『俺なら才能がなくても努力でカバーできる』と。そう思って実業団に進んで、ずっとそういう気持ちでやっていましたけれど、実業団に行って上には上がいるんだなというのを感じてしまったんです」
社会人で3年間ランナーを続けたが、五輪への思いを捨て切れず、より可能性を感じたトライアスロンへの転向を決意。周囲の反応は冷ややかだったが、一番の恩人・原監督の「面白い。お前が東京五輪に出るイメージを俺は持てる」との一言が背中を押した。“格好悪い”競技転向から、すっかり振り切れた。「あとはもう自分の結果次第、自分の取り組み次第だ」。
「出るからには1番を目指す」
東京五輪への第一歩となる10日の大阪トライアスロン舞洲大会には、五輪で採用される距離の半分で競うスプリント・ディスタンス(スイム0.75キロ、バイク20キロ、ラン5キロ)に出場する。「そんなに甘くはない」と自らに釘を打ちながらも「出るからには1番を目指す」と闘志は十分だ。
五輪への道は険しいのは間違いない。選考基準は決まっていないが、国際大会でポイントを重ねてワールドカップに出場し、さらに上位のトライアスロンシリーズや世界選手権の出場権を獲得する必要がある。JTU五輪対策チームU15リーダーの蓮沼哲哉氏も「リオが終わって、すぐにでもコツコツ(ポイントを)貯めて、3、4年後に枠を獲得していかないと」と説明する。大谷自身も「まずは結果が出ないと意味がない。結果ありきで、練習をしっかりした上での話」と慢心はない。
屈託ない笑顔で語る自然体の25歳が、東京五輪の金メダルで、そしてその生き様で、従来のアスリートの概念を打ち破ろうとしている。
(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)