ボンズも謎!? イチロー好調の要因は? データから見えるバッティングの変化

丹羽政善

四球多く、キャリア最高に迫る出塁率

アメリカ時間2日のブレーブス戦でタイムリー三塁打を放ち、3000安打まで残り11本とした 【写真は共同】

 であれば、ますますイチローがつかんだポイントを見抜こうという作業は不可能に思えるが、さまざまなデータが好調さを裏付けている。

 まず打席数あたりの三振の率。8.2%は01年に次いで過去2番目に少ない。対照的に四死球は11.5%でキャリア最多。イチローの場合10%を超えること自体、2度目である。伴って面白い現象が起きている。今年の三振の数は15個。四球は21個。三振の数よりも四球の数が多いというのはメジャーに来てから2度目だ。

 関連があるのだろう。今年、イチローがボール球を振る確率は25.1%。28.6%というキャリア平均さえ下回る。一時は35%を超えるほどボール球を追いかけていたが、記録が残る02年以降では02年(19.2%)、04年(21.5%)、03年(23.0%)に次いで4番目に低い数字である。

 また、打率が高いのに加え、四球が増えているということは、当然出塁率が上がる。4割1分2厘という出塁率は、262本のシーズン最多安打記録をマークした04年の4割1分4厘に迫っている。

 戻って来た数字もある。

 例えば、本塁打を除く、グラウンド内に飛んだ打球がヒットになった割合を示す「BABIP」という指標などがそうだ。足もあるため、前に飛ばせば、ヒットになる確率が高くなる――というのは長くイチローの特徴だったが、ここ数年は3割を切ることも多く、それが打率低迷に繋がっていたが、今年は3割7分でキャリア通算(3割4分1厘)を上回っている。

 ハードヒット(強い打球、ライナーなど)の率も2000年代の中頃のレベル。打率が3割を切った過去5年は20%を超えたことがなかったが、今季は22.4%で久々に強い打球が多く見られるようになっている。

ゴロを打つ確率がキャリア最低!?

 ただ、そうした一方、これまでとは逆の傾向が出ている数字もある。

 先ほど触れた04年は、ゴロを打つ確率は63.1%だった。ゴロを打つことで可能性が広がる――。内野安打につながってそれが打率と連動したが、ここ何年かはそうでもない。

 14年のゴロの確率は57.9%。打率は2割8分4厘で、11年以降では一番高い。しかし、昨年のゴロの確率は58.5%で、さらに上がったものの、打率は2割2分9厘に低迷した。今年はゴロを打つ確率は49.3%ちょうど。打率は3割3分8厘。50%を切るとしたらキャリア初だが、それでもこうして結果が出ている。

 もちろん、すべてのデータはまだ183打席でのものだ。今後、平均値に近づいていくのか、離れたままなのか分からないが、いずれにしても興味深いデータが並ぶ。さらには、開幕前につかんだものとどうリンクするのかが、気になるところである。

2009年は城島が復調を予感

 ところで、ふとこんなエピソードを思い出した。

 09年に行われたWBC(ワールドベースボールクラシック)の中国戦。イチローが、セカンドゴロに倒れダグアウトに戻ってくると、マリナーズでもチームメートだった城島健司が、声をかけた。

「イチさん、ナイスバッティング!」

 イチローはこう返した。

「あの当りで”ナイス”っていえるのは、ジョーしかいない」

 城島によれば、「あのとき、(イチローは)タイミングがずっと遅れていた」そう。

「遅れてるというか、始動というか、球を長く見てるーー僕も悪いときはそうなんですけど、球を目で見よう、目で見ようとして、始動が遅くなるときがある」

 しかし、あのセカンドゴロは早かった。城島が復調を予感すると、イチローは次戦の韓国戦で3安打した。あの年は、胃潰瘍で故障者リストに入り、夏の終わりになってふくらはぎの張りを感じることがなければ、04年を凌ぐ安打ペースだった。あの時は、あのセカンドゴロが一つのポイントだった。

 似たような要素が、今年の数字と関連があるのかどうか。

 ゆっくりとほどいていけば一つにたどりつくような、つかないような。そんな中でイチローは16年を折り返そうとしている。メジャー通算3000本安打まではあと11本。 

※記録は日本時間7月3日時点のもの

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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