ロスマレン陥落…新王者シッティチャイの誕生 「グローリー31」アムステルダム大会結果
主要上位選手のほとんどがオランダ在住である以上、オランダ開催は最重要であることは論を待たなかったわけで、これでグローリーもオランダを軸として半年ごとの落ち着いた世界展開が進められる環境が整った。期待したい。
コンテンダーTを制したシッティチャイが挑戦
ロスマレンとの再戦を制しグローリー70Kg級新王者となったシッティチャイ 【Ben Pontier/Glory】
そしてコンテンダートーナメントを制したシッティチャイが再びロスマレンの前に立った。イタリアは両者にとって第三国だったが今回の地の利はロスマレン。試合の流れは、落ち着いてロスマレンの動きを見つつ隙を逃さず的確に顔面にパンチをヒットさせ左のロー、インロー、ミドル、テンカオを繰り出すシッティチャイ。特にノーモーションからの左ヒザを何度も胸に突き刺す。
シッティチャイ勝利も不可解な判定に批判
会場の大画面に映し出された攻撃比率パーセントではロスマレンが勝っていたが… 【Ben Pontier/Glory】
判定結果は割れ王者交代となったが印象的には妥当な結果と思えた。しかし問題は大画面に映し出された両者の攻撃比率パーセントで、数字だけ見るとロスマレンが勝っている。同じことは昨年のニキー・ホルツケンvs.マーテル・フルンハルトのタイトルマッチでも見受けられ、攻撃比率で圧倒的に数値が上のフルンハルトが判定で負けるという釈然としない結果が起った。
場内からはブーイングが発生し、いったい何のための攻撃比率表示なのか疑問視されている。グローリーからは、あくまでも数値は参考であって攻撃によるダメージがどうなのかも問われるという説明はあったが、それなら比率など大画面に表示する必要などなく、むしろ表示によって選手や関係者に疑惑を生じさせることになる方が問題である。
今回もロスマレン側から疑義が投げかけられ、「グローリーは恥ずべきだ。本当に恥ずべきことだ」とネット上でロスマレンが主張している。数値を大画面表示する以上は数値に沿った判定を下さないと今後も同じような問題が何度も起りえるだろう。グローリーは判定基準をもっとクリアにしなければ選手からの批判が増える危険性を孕んでいる。
フルンハルトが77kgコンテンダートーナメント制す
77kgコンテンダートーナメント決勝はフルンハルトとコンゴロの“同門対決”に 【Ben Pontier/Glory】
6月25日(現地時間)オランダ・アムステルダム ライ・コングレスホール
<70kg世界タイトルマッチ>
○シッティチャイ(タイ)
(判定2−1※48−47,48−47,47−48)
●ロビン・ファン・ロスマレン(オランダ)
※シッティチャイが新王者
<ヘビー級 スーパーファイト>
○イスマエル・ロント(スリナム)
(判定2:1※28−27,28−27,27−28)
●ヘスディ・ヘルヘス(エジプト)
ここ2年ほどは中国のクンルンでの試合を主戦にしていたヘルヘスがグローリーにカムバックしランキング3位のロントとの一戦。セコンドには現場復帰を果たしたトム・ハリンク会長が顔を見せた。
序盤は猛攻を繰り出したヘルヘスが圧倒しそのまま試合を持って行ってしまうかと思われたが、ロントがギリギリで踏ん張った。逆に中盤はロントが猛反撃。テンプルパンチに弱いヘルヘスの頭部を執拗に狙うが、ヘルヘスもガードを固くしてブロック。こつこつときつい右ローをロントに当てて削る。終盤はスタミナ切れの両者のクリンチが増え両者ともにイエローカードでマイナスポイント。判定結果は割れロントが勝者に。
<77kgコンテンダートーナメント セミファイナル第一試合>
○マーテル・フルンハルト(スリナム)
(3R1分08秒 TKO※3ダウン)
●カリム・ベナズース(フランス)
序盤はマーテルが攻め中盤はカリムが反撃。終盤はマーテルが立て続けにダウンを三度奪ってTKOに葬って決勝進出。
<77kgコンテンダートーナメント セミファイナル第二試合>
○ヨアン・コンゴロ(スイス)
(判定2−1※29−28,29−28,27−28)
●ハルト・グリゴリアン(アルメニア)
グリゴリアンへの声援が高い。それを背中に受けて序盤はグリゴリアンが攻める。コンゴロも一歩も退かず中盤での接近戦のパンチ攻防が凄まじい。終盤はグリゴリアンがスタミナ切れとなりバランスを崩し印象が悪い。コンゴロが決勝へ。
<77kgコンテンダートーナメント ファイナル>
○マーテル・フルンハルト(スリナム)
(判定3−0※三者29−27)
●ヨアン・コンゴロ(スイス)
深刻な問題が発生した。マーテルはマイクスジムの選手兼コーチである。そしてコンゴロはオランダに来た時はマイクスジムで練習を重ねている。もちろんマーテルとスパーリングもするしマーテルの指導も受けている。この決勝では遠慮してマイク会長は姿を見せなかったが、両陣営ともセコンドは全員がマイクスジムのTシャツであり決勝戦はスパーリングであるかのように見られてしまった。
控え室で何らかの話し合いがなかったか? 事前打ち合わせはなかったと誰が証明できるか? 世話になっている側が相手に勝利を譲る気持ちになることは否定できない。トーナメント戦に同じジムから二人の選手を出すことは深刻な問題となるので今後は一切止めた方がいい。とはいえ勝利したマーテルはリング上で叫んだ。「ニキー! ぶっ倒してやるからな!」昨年のオランダ大会で不可解な判定負けに喫したマーテルが再びニキーとタイトルマッチを行う。
ムエタイマスターの異名を持つセンチャイは片手逆立ちキックで会場の空気も支配 【Ben Pontier/Glory】
○アイファン・タネンベルグ(オランダ)
(判定3−0※30−26,30−26,29−27)
●マキシモ・スアレス(スペイン)
2メートルのタネンベルグはスアレスとの身長差だけで反則にすら思える。スペイン王者としてスアレスも果敢に奮戦したものの2Rに右ハイでダウンを奪われ大差判定負けとなった。
<70kg スーパーファイト>
○アナトリー・モイセフ(ロシア)
(判定3−0※三者29−28)
●ジョシュ・ジャウンシー(カナダ)
期待のジャウンシーはアンディ・サワーのもとで練習を重ねている。そのサワーをセコンドにして臨んだ一戦だったが、ロシアのモイセフの技量が上だった。お互いに上下ちらしながら息を呑む序盤中盤の攻防が続いたが、3Rにモイセフの右フックを受けダウン寸前となったジャウンシー。うれしい判定はモイセフに。
<55kgレディースファイト>
○イシス・フェルベーク(オランダ)
(判定2−1※29−28,29−28,28−29)
●イリナ・マゼパ(ロシア)
毎大会でレディース一試合が組まれる。トーナメントとしてのワンマッチであり、この試合はクオーターファイナルで勝てばセミファイナルへ進出だ。探り合いの序盤を終え中盤からはロシアのマゼパが圧倒的に主導権を握り試合終了。ところが判定はフェルベークに。これには場内からブーイング。
勝利者インタビューをリング上で受けたフェルベークもまったく勝った気がしなかったせいか「1Rは私が取ったかもしれませんが2R、3Rは負けていたと思います」と口にしたことで場内失笑。負けた気はサラサラないマゼパもポカーンの表情だった。誰が見てもマゼパ勝利だったこの試合の判定はかなり問題である。
<65kg スーパーファイト>
○センチャイ(タイ)
(判定3−0※29−26,29−26,29−28)
●エディ・ナイト・スリマニ(フランス)
ムエタイマスターの異名を取り315戦のキャリアを持つセンチャイ35歳。登場から大きな拍手に包まれた。一方のスリマニはフランスのゴールデンボーイと期待される22歳。体格差もありスリマニはかなり大きい。しかし1R目に右ハイからの左ストレートでストンとダウンを奪ったセンチャイ。まるで魔法のようだ。スリマニの動きを先に先に読んでは最小限の動きで攻めを封じていく姿はまさにムエタイマスター。合間にはベロを出して挑発したり、逆立ちキックを披露したり、場内の期待に十分に応じるセンチャイ。観衆の心も自在に操っている。スリマニのミドルを抱えての反撃をホールディングとされ減点1を取られたものの判定結果は圧勝。さすがである。
<95kg ライトヘビー級タイトル認定戦>
○ザック・ムエカッサ(コンゴ)
(1R1分47秒 TKO※3ダウン)
●ムラド・ブジディ(チュニジア)
※ムエカッサがライトヘビー級暫定王者
当初は王者バキトフにブジディが挑むタイトル防衛戦の予定だったが、バキトフのケガ離脱によりムエカッサが抜擢され、両者による王者認定戦に変更された。
開始とともに短期決戦狙いのブジディが攻める。それを受け流したムエカッサは左フックを決めてダウンを先取。かなりのダメージで何とか立ち上がったブジディ。それを再び左フック右アッパーで倒したムエカッサ。勝負あったかに見えたがブジディは再び立ち上がり勝負を捨てない。しかし視線が定まらずバランスも崩れたブジディを仕留めるのはムエカッサにとって簡単なことで、三度目のダウンを奪われたブジディは秒殺TKO負けとなった。
試合前から無理があった。イスラム教のブジディは現在ラマダン断食の真っ最中であり、朝から日没までは何も口にできない。試合でのインタバルで水も飲めない。そんなブジディにとっての戦略は1Rの短期決戦狙いしかない。結果的には逆にKOで葬られてしまった。自身の宗教的行事は事前に分かっていることであり、万全の状態で試合に臨むことはプロの条件でもあるわけで、それが難しいと予想できる場合は試合オファーがあっても受けるべきではなかったと思われる。多くのイスラム選手たちが今回のブジディの姿勢を不思議がっており賛同する関係者はほとんどいなかったように思う。
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