U−16代表が感じた世界との”距離” 強豪国との試合で得た危機感と向上心
2時間以上に及んだ選手ミーティング
森山監督は「怖いなではなく、この相手をぎゃふんと言わせたいと思ってほしい」と選手たちへの思いを語った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
「日本の中でこの体験をできたのは彼らだけ。そこからどうするのかということを鮮明にイメージできるのも彼らだけなので、そのアドバンテージを生かしてほしい。ここからリベンジの戦略を立てて、『またこの相手とやりたい!』と思ってほしい。『怖いな』ではなく、『この相手をぎゃふんと言わせたい』と思ってほしい」
キャプテンを務める中盤の主軸・福岡慎平(京都サンガF.C.U−18)は「いまのチームは遠征で順調に勝ち続けていたので、良い薬になった。負けて良かったなと思っている」と言って前を向いた。マリ戦の翌日には、選手たちだけのミーティングを開催。「一から映像を見直して、『これが世界』というのをあらためて感じた」(DF菅原由勢=名古屋グランパスU18)上で、選手たちは激論を交わした。
「もういくらでも話せる感じだったので、18人全員が議論に参加して、活発すぎるくらいでしたね」と笑った菅原によると、ミーティングの時間は「いつの間にか2時間以上経っていた」というほどだったと言う。実は森山監督も同じ部屋を使ってスタッフのミーティングをする予定だったそうなのだが、「様子を見に行ったら『あれ?まだやってる』という状態だった」という。ホワイトボード3枚に書き切れないほどにチームの課題、世代として高めていく覚悟を確認し合うこととなった。
「(課題として)一番出たのは、個の強さが足りないということ。フィジカル、止める・蹴る・運ぶ・見るという基本の質。あと残り10分、15分で劣勢を跳ね返しにいけていたのかと言えば、誰一人いけていなかった。メンタルの部分でやられていた」と菅原が言えば、「(マリ戦翌日は)あまり寝られなかった」と責任を痛感していた主将の福岡も「もっとパススピード上げなければいけない、フィジカルも上げないと話にならない。どうすれば世界と戦えるのか。体幹(トレーニング)も意識高くやっていきたいし、パスの質も追求したい」と感じた課題をまくし立てた。
森山監督は「リベンジはもう始まっている。相手のあのプレッシャー、あのフィジカルが生む圧力の中で何ができるのかを自分で作り上げていく、磨き上げなければ意味がない」と若い選手たちをあおる。鉄は熱い内に打てと言うが、まさに日本サッカーの柱石となるべき選手たちが熱を帯びたタイミングだった。優勝を逃した状態で迎えたメキシコとの最終戦は「アップの時点でみんなの雰囲気がいつもと違った」(宮代)と士気高く臨み、6−0と圧勝を飾った。
チームと選手たちが得た成長の物差し
乗り越えるべきハードルを得たU−16代表。その先に見えるのは「世界」だ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
「いつもは負けたらモヤモヤしているんですけれど、今回は負けてスッキリしている。マリは別のレベルだった。こんなにやられたのは初めて。でも、世界に行って初めて『ウワッ』となるのではなく、ここで経験ができたのは大きかった。自分たちが足りないことに気付けた。本当に来年のU−17W杯でマリとやりたいし、チームとしてもリベンジしたい」
マリ戦の翌日、激論を交わした中で得た思いは全員に共通するものだろう。日本の16歳は確かな気付きと成長の糧、そして乗り越えるべき高いハードルを得た。いまの彼らには指導者から言われてきたパスの質、ポジショニングの精度、体幹の重要性、試合の流れを読む戦術的判断、そのすべてが違った意味に聞こえているだろう。熱血指揮官が残した「よりたくましくなって代表に戻ってこい」という言葉も響いたに違いない。熱くなった鉄を打ち、まずは9月のアジア最終予選、そして来年のU−17W杯へ。爆発的成長を果たした先には東京五輪、そしてW杯という本当の「世界」が待っている。