映画のようなトヨタの5回目の2位 ル・マン制覇へ「夢を持ち続けろ!」
一貴に送られた大きく、長い拍手
スタンドを埋めた観客からトヨタチームに大きな拍手、歓声が送られた 【田口浩次】
「あれは、2位を狙っていこうと飛ばしているとき、ポルシェの1号車に抜かれて、それについていこうとしていてたら、ダウンフォースが抜けてしまってスピンしてしまいました。グラベルにはまったとき、これは4輪駆動じゃないと出ないと判断して、中途半端じゃなくアクセル全開にしたら脱出できました」と、あのグラベルからの脱出はトヨタTS050だから可能だったことを明かした。
そしてグランドスタンド前で起きたまさかの逆転劇。23時間と57分を戦い、本当に手にしていたはずの勝利が、指の間からすり抜けた瞬間だった。グランドスタンドの観客も目の前に起きたことに戸惑うしかなかった。ポルシェが逆転し、2号車がチェッカーを受けたとき、もちろんポルシェファンの歓声が飛び交い、ポルシェの旗が振られていたが、昨年、17年ぶり17回目の総合優勝を果たしたチェッカーの瞬間とは、まるで様子が違っていた。
そして、次々とマシンがチェッカーを受けていき、すでに失格が決まった5号車がなんとかチェッカーを受け、一度停まったグランドスタンド前、同じ場所に再び停車したとき、グランドスタンドからは歓声ではなく、満員の観客からの惜しみない拍手が起きた。その拍手はポルシェのチェッカーの歓声よりも大きく鳴り響いて、なかなかコクピットから出てこなかった中嶋一貴がマシンから降り、スタッフふたりに両肩を預けてガレージへと戻っていくとき、その拍手はさらに大きく、長く鳴り響いた。
勝者ポルシェもたたえる
レース後、トヨタのガレージ裏では、溢れる涙をこらえきれずにいる者、放心状態に座り込み目を赤くしながら遠くを見つめる者、人目をはばからず泣き、それを同じく泣きながら抱きかかえる者、気丈に涙を見せず集まってくるメディアからの質問を受ける者と、本当に色々なチームスタッフの姿があった。
さらにメインスタンド側で表彰式が進行するなか、共に戦ったアウディのスタッフたちが重鎮も含め次々とトヨタのガレージ裏にやってきては、スタッフを励まし、互いの健闘を称えに来た。また、ポルシェのスタッフやドライバーたちも、集まってくるメディアの質問に、自分たちの勝利の驚きとともに、トヨタは勝者に値するレースをしたと称えた。
思い出されるハッピーマンのせりふ
90年に公開されたハリウッド映画「プリティ・ウーマン」にはこんなエンディングシーンがある。ジュリア・ロバーツ演じるヴィヴィアンとリチャード・ギア演じるエドワードが結ばれたところで、ハッピーマンと呼ばれる男が、いくつかの言葉を発して歩いていく姿に合わせ主題歌の「オー・プリティ・ウーマン」が流れてエンディングとなる。このとき、ハッピーマンが発した言葉はこうあった。
“Welcome to Hollywood! What's your dream? Everybody comes here. this is Hollywood, land of dreams. Some dreams come true, some don't. but keep on dreamin' - this is Hollywood. Always time to dream, so keep on dreamin'.”
「ハリウッドへようこそ! あなたの夢はなんだい? 皆、ここへやってくる。ここは夢の地だ。ときに夢は叶い、ときに叶わない……。しかし、夢を持ち続けろ! ここはハリウッド。つねに夢を持っていていい。そう、夢を持ち続けろ!」
この言葉はきっとすべてのレースを戦っている者に通じるのではないだろうか。そして、やはり映画化するならば、トヨタは再び来年も、そして再来年もル・マンの地を訪れ、戦いに挑戦し、初勝利し、さらにはその勝利数を伸ばすため、さらにル・マンに挑戦し続ける、そう遠くないはずの未来が訪れたとき、このレースが映画化されたら、きっと素晴らしいものになるに違いない。