一致団結できる強さが宿りつつある鹿島 浦和戦で勝たなければいけなかった理由

田中滋

試合経験のなかった若手にも突き付けられた課題

消化試合となったナビスコカップの第6節・磐田戦、第7節・大宮戦では、多くの若手が公式戦を経験した(写真は大宮戦) 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 第1節の対戦相手はヴァンフォーレ甲府。少しメンバーを落として臨んだ試合は、6分にいきなり失点すると、前半終了間際の45分にも追加点を許し、流れに乗れないまま1−2で敗れてしまった。この大会での今季の戦いぶりを象徴する試合だったと言えるだろう。

 不運も重なった。現在はチームのなかでも激しい競争が繰り広げられているセンターバック(CB)はこの時期、火の車になっていた。昌子源が日本代表に、植田直通がU−23日本代表にそれぞれ招集され、昨季レギュラーのファン・ソッコは負傷中だった。移籍してきたばかりのブエノはまだ戦術理解が進んでおらず、ルーキーの町田浩樹はまだ発展途上。CBを託せる選手が青木剛しかおらず、本来は右サイドバックの西大伍を中央のポジションで起用せざるを得なかった。

 西自身のパフォーマンスは悪くなかったが、第2節の対戦相手はヴィッセル神戸。ペドロ・ジュニオールに2ゴールを許すなど、1−4で敗れた。甲府にはリーグ屈指の突破力のあるクリスティーノがおり、神戸には絶好調だったペドロ・ジュニオールとレアンドロがいた。さすがの西にも荷が重く、外国人選手のパワーとスピードを抑え込むことはできず、2連敗で大会の流れはさらに厳しくなってしまった。

 後に石井監督は大会を次のように振り返っている。
「メンバーをどういうふうに選んでいくのか。あとは全体のレベルがなかなか上がらないまま、戦っていかなければいけない状態もあるので、そういう難しさというのはこの予選リーグでは感じました」

 確かに、戦術理解はもちろんのこと、監督が最低限求めている「戦う姿勢」を、どんな試合でも出せる選手と出せない選手がいた。しかし、消化試合となった第6節のジュビロ磐田戦(1−1)、第7節の大宮アルディージャ戦(0−1)で、所属するすべての選手(GKの小泉勇人を除く)が公式戦を経験できたことでチームは変わる。試合経験のなかった若手にも課題が突き付けられ、勝つためのプロセスがチーム全体に共有された。

生まれた質の高さを求め合う空気

浦和戦で勝負を決定付ける2点目を決めた鈴木優磨。若きチームが結果を手にできれば、さらなる自信を得ることになるだろう 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 そして、臨んだ浦和戦だったのである。

 相手に押し込まれる苦しい展開になりながらも、全員が体を張ってゴールを守った。チームが勝つために何をしなければならないのか、一致団結できる強さが宿っていた。

 ただし、これをすべての試合で実践するのは難しい。それができるようになって初めて、鹿島はかつての強さを取り戻すことができるだろう。

 それでも、そこに近づいているのは確かだ。前人未到の3連覇を成し遂げたオズワルド・オリヴェイラはかつて「このクラブは誰が率いてもある程度の結果が残せる基盤がある」と話した。それは、クラブが築き上げ、選手に提供している部分もあるが、それだけでは足りない。なぜなら試合をするのは選手だからだ。

 いま選手たち自身が、練習への姿勢、質の高さを求め合う空気が生まれている。「ステージ優勝もタイトルの1つ」という石井監督に率いられた若きチームが、結果を手にできれば、さらなる自信を得ることになるだろう。

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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