もっと注目クラレント 「競馬巴投げ!第124回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

「ダービーがどうして一番大事なレースなの?」

[写真3]橋口慎介厩舎からもう1頭レッドアリオン、厩舎初のGI挑戦だ 【写真:乗峯栄一】

 わがダービー馬券は、当欄でも書いたようにスマートオーディンから買い、「それでも友道さんの初ダービーも応援したいし」とマカヒキからも買ってしまい、当たるには当たったが、一番安いやつが来たので、ほとんど元返しになってしまった。

 でももう一つの出会いは当日朝、川崎駅前で待ち合わせし、終日同道した高校の同級生かつ編集者である。彼は60歳になって大手出版社勤務から独立して個人出版社を立ち上げた。そこで「乗峯本を出す気がないわけでもない」てなことを言ってくれて、「そのためにはまず競馬を知らないと」ということで、ダービーを案内することになる。彼は長く東京で勤務したが、東京競馬場も、競馬自体も初体験である。

 だらだらと沢山の駅を止まる南武線に乗りながら「日曜にしたら南武線、混んでると思うけど、この人たちはみんなダービーに行くの?」と最初の質問がくる。この60歳にして競馬初体験の人間の質問が、こちらをぐっと初心に戻らせ、自分の思いこみや無知を知らされたりする。なかなか鋭いのだ。

[写真4]サトノアラジンは前哨戦の京王杯SC勝利、ジワジワ力をつけてきた 【写真:乗峯栄一】

「スポーツ紙の競馬面、もしくは競馬予想紙を読んでいる人はほぼ90%、府中本町で降りる」と最初の質問はクリアする。

 しかし府中本町駅から競馬場入り口までの長い通路で、またしても「この人たちは全部競馬場に行くのか」にはちょっと考える。「ほぼそうだと思うけど、ひょっとしたら、たまたま競馬場の近くに住んでいて、毎週毎週土日になったら混雑して、特に今日のようなダービーの日なんかウンザリだ、いい加減にしてくれと吐き捨てる人も、中には混ざっているかもしれない」などと答える。

「馬券の売り上げっていうのはどのくらいで、どう配分されるの?」という質問は想定内だった。「75%が購入者に払戻しとして還元される。あと25%のうち10%が国庫納付金、税金やね。で、残りの15%がJRAの施設費、職員への給与、それから優勝馬などへの賞金に充てられる。例えば今日のダービーだと優勝馬には2億円の賞金が出るけど、そのうち80%1億6千万を馬主が取り、10%2千万を調教師、騎手と担当厩舎スタッフが5%の1千万ずつになる」とこれは割合明快に答えられる。人のカネには特にウルサく生まれている。

 しかし「ダービーがどうして一番大事なレースなの?」には、想定内質問であるにもかかわらず、うまく答えられなかった。「その世代(3歳馬7千頭)で一番強い馬を決めるレースだから」と答えたが「その世代ナンバー1より、総世代ナンバー1の方が大事なんじゃないの?」と言われ「そうか、そうだよなあ、じゃダービーより有馬記念の方が大事ってことか。でも有馬記念は“今年ダメでも来年がまたある”とか言えるしなあ……」などとムニャムニャしてしまった。

武豊と乗峯、ほとんど甲乙つけがたい

[写真5]ドバイGI馬リアルスティール、戦績面から言ってもモーリスに勝って不思議はない 【写真:乗峯栄一】

 そんな、消化不良を抱えながら、競馬場レストランに並んだが、ここで初心者から会心の一発が出る。

「ここのレストラン、けっこう競馬界の有名人が来るんだよ。ちなみに競馬界の有名人、誰か知ってる人いる?」と聞くと「いやあ、知らないなあ、武豊ぐらい? あと乗峯かなあ」

 なんて素晴らしい返答なんだと、しばらく絶句する。

「それはいいところを知ってるねえ。その二人は……ほとんど甲乙つけがたいから」と不覚にも、ほとんど涙声になってしまった。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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