ダルビッシュ、復帰初戦で上々アピール TJ手術経験者の復活の傾向は?

丹羽政善

復帰2年目に完全復活するパターン

トミー・ジョン手術経験者としては初めて殿堂入りを果たしたスモルツ 【Getty Images】

 なかには復帰初戦から散々だった投手もいるが、その後のキャリアを考えれば、小さなつまずきにすぎない。
 
 01年5月17日にダルビッシュと同じく手術から14カ月で復帰したジョン・スモルツ(当時ブレーブス)は、3回を投げきるのに70球を要し、6安打5 失点と散々な結果だった。10年8月26日に復帰したジョーダン・ジマーマン(当時ナショナルズ、現タイガース)も4回を投げて、7安打5失点だった。

 スモルツは結局、5回先発したものの調子が戻らずリリーフに転向したが、これが成功。しばらくはクローザーとして起用されることになり、4年後に先発戻ると 再び実績を残し、15年にトミー・ジョン手術を受けた投手としては初めて殿堂入りを果たした。
 
 ジマーマンの本格復帰は2年目から。そして復帰3年目となる12年から4年連続で32回以上先発すると、トミー・ジョン手術を受けた投手では初めて、昨オフにタイガースと1億ドル(約110億円)以上の契約を結んでいる。
 
 このジマーマンのように、1年目は故障前の成績に劣るが、復帰2年目になって、完全復活するケースは少なくない。ジョシュ・ジョンソン(当時マーリンズ)、ティム・ハドソン(当時ブレーブス)、ケリー・ウッド(当時カブス)、先ほどのウェインライトもそうである。

 2年目に復活ということで見れば、こんなケースもある。クリス・カーペンター(カージナルス)は、08年7月30日に復帰したものの、その年は右肩に張りが出て、4試合にしか先発できなかった。ところが翌年、防御率のタイトルを獲得するなど、不安をいっそうしたのだった。

 しかし、一度復活しても、再発した投手もいる。ジョシュ・ジョンソンは、復帰2年目(09年)には33試合に先発し15勝5敗、防御率3.23でオール スターにも選ばれたが、14年4月、2度目のトミー・ジョン手術を行い、15年9月に3度目の手術に踏み切った。彼の場合、表の中では最短の11カ月で復帰している。そこに無理があったのかどうか。
 
 逆に17カ月半で復帰したマット・ハービー(メッツ)と18カ月で戻ったジョン・ラッキー(当時レッドソックス、現カブス)は、いずれも復帰後、危なげなく投げている。今後どうなるかは分からないが、彼らはともにオフに手術をしたことで、翌年を全休し、2年後の開幕に間に合わせるという無理のない日程が組めた。これくらいが理想という声はある。早く戻るレースをしているわけではないのだ。

ダルの視線の先にはどんなキャリアを送るか

 さて、復帰初戦から好調で、復帰戦での史上最速をマークしたと思われるのが、11年9月6日に復帰したスティーブン・ストラスバーグ。99マイル (約159キロ)を記録し故障前と変わらない球を投げたが、翌年以降、例えば4シームファストボールの平均球速がゆっくりと下がっている(といっても2マ イル程度だが)。
 
 これが結果にどう現れているかだが、極端に良いわけではないが、極端に悪くもない。ドラフト全体1位指名された投手のレベルではないが、今年は開幕から9連勝中と価値を重ねている。

 さて、ダルビッシュの場合。

 まずは、ウィンライトらのケースをみれば、2回目に崩れることもあるようだが、打たれたところで、それが尾を引く可能性は低いようだ。

 復帰したシーズンはどうか、という点では、時期がバラバラなので単純比較できないが、復帰時期が近いバーネット(6月3日)の場合、月別の勝敗、防御率を見ると、徐々に良くなっていた。
 
6月:0勝3敗、防御率5.04
7月:2勝2敗、防御率3.99
8月:2勝0敗、防御率2.83
9月:2勝0敗、防御率2.51

 ただ9月、バーネットは肘に張りを感じ、先発回数は2回にとどまっている。これは確実に“ウォーニングサイン”だが、深刻な問題ではなかったことは、翌年32回先発したことでも分かる。

 結局、エース級の投手はそもそもポテンシャルが違うのか、多少の浮き沈みがあっても、ジョンソンを除けば、トミー・ジョン手術が、キャリアを妨げることにはなっていない。

 手術、リハビリ、復帰のそれぞれのハードルは決して低くないはずだが、ダルビッシュしかり、彼らトッププロは確実に超えていく。勝負は、復帰後どんなキャリアを送るか、あるいは送ったか、ということなのかもしれない。

 ところで、ボールと判定されたポランコへの1球のことである。

 試合後、ダルビッシュの球を受けたボビー・ウィルソンがこう明かしていた。

「夕陽の照り返しのせいか、『序盤はボールが見にくかった』と主審が言っていた。そういう結果だと思う」

 あの日は、午後6時15分開始というやや変則的だった。とはいえまさか、そういうことがあるとは。ちなみに打者から、そういう不満は聞こえなかった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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