常勝西武もいまや幻影…再び黄金期を迎えるために必要なこと

中島大輔

ベンチの指示が徹底できない攻撃陣

本塁打が打てる中村やメヒアら打撃の能力が高い選手がそろう反面、チームとしてのつながりに欠けるシーンが目立つ 【写真は共同】

 一方、リーグ最高のチーム打率2割6分9厘を誇る西武は、なぜ「あと1本が出ない」のか。5月24日の楽天戦前に橋上コーチに聞くと、こう答えた。

「選手には言っているけど、勝負どころで無難に狙い球を待つと勝機がない。特にいいピッチャーはランナーがいないときといるときで、投球が変わってくる。何か(球種やコースを)捨てることは、割り切らないとできない。うちの打者はある程度打撃の能力が高い反面、ランナーがいるときといないときで打撃の使い分けをできるようにしないと、得点を増やしていけない」

 打率と得点圏打率を比較すると、栗山巧(3割1分6厘→2割2分)、中村剛也(2割7分1厘→1割5分7厘)、メヒア(2割8分7厘→2割5分5厘)、浅村栄斗(2割8分1厘→2割6分5厘)と主軸が軒並み得点圏打率を下げ、チャンスでの打率が上回るのは秋山翔吾(2割9分8厘→3割4厘)くらいだ

 では橋上コーチの言うように、どうすればベンチの指示を徹底できるようになるのか。「僕と選手の信頼関係だと思います。しっかりしたものができないと、何とか割り切って、勝負どころで打てません」

 選手と首脳陣の信頼関係――それこそ、常勝時代と現在の最たる違いかもしれない。森祇晶監督最終年の94年にダイエー(現ソフトバンク)から移籍してきた佐々木誠(現ソフトンク3軍打撃コーチ)が、「ライオンズでは一人一人がチームのために何をすべきかと考えて動いていた。首脳陣もそういうチームをつくっていた」と前所属との違いを話していたことがある。

 一方、現在の西武では攻撃のタクトを振る橋上コーチが、選手との信頼関係構築がまだ不十分だと明かしている。つまり、チームが一つにまとまっていないのだ。守備のエラーや攻撃時の「あと1本」は、プロの1軍レベルになれば精神面が左右するところも大きい。4月22日、負けの続くチームはプレッシャーにさらされ、9回に鬼崎、浅村のエラーで逆転負けを喫した。こうしたミスはチームが底を脱するにつれ、顔を見せなくなっている。

ライオンズの血が流れている――

 苦しんでいた先発投手陣には明るい要素も出てきた。開幕投手を任された菊池雄星が白星を4まで重ね、高橋光成、佐藤勇も先発ローテーションに入って勝利を挙げている。投手陣の新戦力台頭がチームに勢いをもたらすばかりか、エース・岸孝之の復帰も6月中と見込まれる。

 選手層に不安はあるものの、スタメンに並ぶ選手に力があるのは間違いない。投手陣でも先発に加え、中継ぎの牧田和久、武隈祥太、抑えの増田達至と形ができている。こうした選手の力を足し算から掛け算に昇華させるのは、フロントやベンチ、現場の信頼関係だ。

 黄金期から20年が経ち、失われたものがあると同時に受け継がれるものもある。85年から12年まで、延べ14年間西武で指導した土井正博元コーチに薫陶を受けた秋山翔吾はこう語る。

「常勝西武とずっと言われているし、ライオンズの血が流れています。チームのメンバーが変わっても、母体は変わっていません。Aクラスを逃すとか、優勝戦線に加われないのではいけないと自分たちも思っています」

 選手たちの思いを受け止め、首脳陣やフロントはチームをどうつくり上げていくのか。黄金期からメンバーやその特徴が変わった以上、チームの戦い方が変わるのは当然だ。ベンチは現在の選手に合った戦い方をし、フロントがそこに足りないものを植え付けていくしかない。

 いまや、常勝の二文字は幻影だ。強い西武を再びつくり上げるためには、現場は何よりの良薬となる目の前の勝利を追い求め、同時にフロントが長期的な視野を持つことが必要になる。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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