浦和と柏、「お買い得」なチケットは? コンサル目線で考えるJリーグの真実(3)
「勝ち点1を得るために」いくら支払うことができる?
『J-League Management Cup 2014』より 【提供:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー】
里崎 先ほどの「勝ち点1あたりのチーム人件費」は、勝ち点と費用のところを比較しているKPIです。ただし、クラブ経営の収益損益計算書というのは、費用の面だけじゃなく収入という面もあります。ですから「クラブに収入面でどういう貢献をしているのか、という切り口があってもいいよね」というところから、入場料収入にひも付けした指標を出してみることにしました。
――つまり同じ勝ち点でも収入が多いチームが、この指標が高いということですか?
里崎 ビジネスとしてスポーツ興行を見たときに、試合というのは観客に対する「商品」になるわけです。お客さんにしてみれば、負ける試合よりも勝つ試合のほうが「商品」に対する満足度は高くなるわけで、その分価値も高いものになるはずです。自分たちの「商品」を高付加価値のものとして買ってもらえるのが理想だとすると、自分たちが生み出しているプロダクトである試合が、どのくらいの単価で売れているのかという指標は1つの目安になると思ったわけです。
――たとえば、これは勝ち点でなく「勝利数」という考え方もあったと思ったのですが、いかがでしょうか。
里崎 それも考えましたが、「じゃあ、引き分けには価値がないのか」という話になりますよね。その点、勝ち点で計算すれば、より実態に近い指標になるのかなと。ただ、実際に作ってみて思ったのが、売る側の理屈だけではなく、買う側が「勝ち点1を得るためにいくら支払うことができるのか?」という数字が副次的に出てくるということなんですね。ですので、需要と供給のバランスを見る指標としても使えるんじゃないかということで、その両方を資料に掲載させていただきました。
――ここでまた、具体的に2つのクラブを比較していきたいのですが、14年シーズンで最も人件費が高かったのが柏レイソル(20億5900万円)、2位が浦和レッズ(20億5400万円)でほぼ同水準でした。ところが、勝ち点1あたりの入場料収入では浦和が1位(3200万円)で柏が18位(800万円)で最下位。両クラブの差は実に4倍。この結果から読み取れることは何でしょうか?
里崎 この点に関しては、われわれもいろいろ考察してみたのですが、出てくる情報だけではクリティカルな結論は出てこなかったですね。ただ、ひとつだけ言えるとしたら「全体の入場料収入の絶対値の違いが大きい」というのはありました。同じくらいの人件費を使っていたとしても、浦和の場合はもともとの収入が大きいので、これだけの差が出ていると考えられますね。
――つまりスタジアムのキャパの差が、そのまま数字に出たということでしょうか? 埼玉スタジアムのキャパは6万3700人、対して日立柏サッカー場は1万5000人ほど。つまり4分の1くらいのキャパしかありません。ということは、実質的にはあまり変わりはないということでしょうか?
里崎 入場料収入は入場者数と入場料単価で決まりますので、確かにキャパが小さい柏の入場料収入はどれだけ頑張っても限界はありますし、その影響は確実にあると思います。しかも、これだけの人件費を投入しているので、勝ち点1あたりの入場料収入で見たときに、どうしても小さい値になってしまいますよね。
浦和が勝ち点1を得るには1066円が必要?
「勝ち点1あたりの入場料収入」はサポーターの顧客満足度とも密接につながってくる 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
里崎 まさに宇都宮さんがおっしゃったように、これって「勝ち点1を取るために、あなたはいくら払えますか?」という見方もできるわけです。つまりサポーター全員で3200万円を払わないと、レッズが勝ち点1を獲得するところが見られない、ということとも考えられますね。
――14年の浦和の平均観客数が3万5516人ですから、1人あたりで割ると901円になります。もちろんアウェーのサポーターもいますから、浦和だけでざっくり3万人と考えると1066円。コアサポなら、全然問題なさそうな気がしますが(笑)。
里崎 そうなんですけれど、柏の場合はその4分の1のお金で勝ち点1を得られるわけです。つまりお客さんの側からすると、そんなにコストをかけずに勝利する試合が見られる可能性が高いし、それだけお得感もある、ということが言えると思います。そうなると、ライト層が「じゃあ、見にいこうか」と考えるようになって、スタンドがどんどん満員に近い状態になっていく。ただし、キャパは限られているので、当然チケットを入手できないお客さんも出てきますよね。となると、クラブ側に対して「チケット単価を上げてみてもいいんじゃないですか?」というサジェスチョン(提案)ができる可能性が生まれるわけです。
――なるほど。このKPIの数値が低いことは、観客側としてはむしろプラス要因であると。
里崎 逆に浦和の場合、チケット単価をもうちょっと下げないと、お得感が感じられないというか、新規顧客開拓のインセンティブにつながらないのではないかという推察はできますね。あるいはMLBのように、対戦カードによってチケット単価を変える「ダイナミック・プライシング」を導入するとか。
――イングランドのプレミアリーグでもやっていますよね。2年前、QPR対リバプールの試合を観戦したのですが、QPRの小さいスタジアムにリバプールが来るということで、ネットでのチケット価格が100ポンド(当時のレートで1万7000円)もしましたよ。
里崎 あれはなぜできるかというと、満員のスタジアムが作られているからだというのが、われわれの考えです。結局のところ「満員でなければ、当日券を買えばいい」という話になるわけです。ですから、その手法を使おうと思ったら、その大前提となるのが「満員のスタジアムを作れるか」という話になるんですね。
――前回もその話が出ましたが、やはり今後のJリーグの発展を考えるなら「満員のスタジアム」というのは避けて通れない課題になりそうですね。ということで、そろそろタイムアップです。次回のテーマは、いかがいたしましょうか?
里崎 はい、次回は「売上高と情報開示」をテーマにお話したいと思います。クラブ独自の情報開示がなぜ必要なのか。そのことによって、どんなメリットがあるのか。そして、広告料収入、入場料収入、その他売上の収入などの理想的なバランスについて、お話できればと思います。
<第4回に続く>