高い理想と現実のはざまで揺れるFC東京 求められる覚悟とビジョンの共有
自縄自縛に陥ったFC東京
第9節で福岡に敗れ、FC東京は危機的状況に陥っていた 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
今シーズンの新体制発表会で立石敬之ゼネラル・マネジャーは「4位と褒めていただけるのですけれども、優勝以外は、もう考えていない」と言っていた。マッシモ・フィッカデンティ前監督との契約非更新に反対していたファンも、経過説明が不十分と捉え、昨年の年間4位よりも上でなければ許さないという世論を形成していた。しかし、実際には第9節を終えて、FC東京は13位に沈んでいた。
ひとつ負けるたびに重圧が高まる。武藤嘉紀、太田宏介に権田修一、3人の日本代表経験者がいなくなったFC東京が、いきなり昨シーズン前半のような結果を残せるはずがないのだが、高い目標設定により、自縄自縛に陥った。
さかのぼると、今シーズンのFC東京は、始動の時点ですでに厳しい条件を背負っていた。戦力ダウンしたチームを率いつつ、J1とJ3とACLに参加、リーグ優勝を目指さなければならないのに、2月9日のACLプレーオフまで時間がない。まずは適合性とコンディションを鑑み選抜したメンバーに、最低限必要なコンセプトをたたき込み、初戦に間に合わせることが、復帰した城福浩監督の仕事になった。
負傷者であっけなく瓦解したベストメンバー
FC東京はニューイヤーカップで優勝し、幸先いいスタートを切ったと思われたが…… 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
FC東京は9−0で完勝。ミッションの第一段階を完遂した。
前から激しくプレッシャーをかける守備は、自分たちの得意とするものであると同時に、相手の突発的なミドルシュートや個々の仕掛けを未然に防ぐ役割も果たしていた。チョンブリFCを下したサッカーはかなり理想像に近いものだったが、相手が弱いからこそ実践できたという側面もある。同等以上の相手にもあのようなサッカーを実行し、さらに質を高めていくには、長い時間が必要だろう。“城福東京”は「ACLプレーオフモデル」の完成に向け、ゆっくり船を漕ぎ出した……、はずだった。
進路が危うくなってきたのは、2月23日に全州でおこなわれたACL第1戦を迎えてからだ。この試合の直前にハ・デソンが負傷、さらに試合の前半で駒野友一が負傷した。最初期の“ベストチーム”が、あっけなく瓦解(がかい)した瞬間だった。
続く2月27日のJ1開幕戦ではハ・デソンに替えて梶山陽平を起用したが調整不足でピークパフォーマンスを示せず、右サイドバックの徳永悠平を左に、ボランチの橋本拳人を右サイドバックに配したが、これも機能しなかった。そのうえ対戦相手の大宮アルディージャはFC東京対策として自陣に引き、中央を堅く守る。この結果、FC東京はただボールを回しているだけになってしまい、相手の切り換えの速い攻撃に屈して失点、0−1で敗れた。
連戦となった3月1日のACL第2戦では、高橋秀人をアンカーに起用してビン・ズオン(ベトナム)に3−1で勝利。羽生直剛、田邉草民と組む中盤で守備の意識やバランスは改善された。また徳永を右サイドバックに戻し、左利きの高卒2年目、小川諒也を左サイドバックに抜てきすることで、ディフェンスラインにも不安がなくなった。そして中4日で迎えた3月6日のJ1第2節ではシステムを4−4−2に戻し、球際に強い米本拓司と橋本にボランチを組ませてベガルタ仙台に勝った。