らしく戦ったバイエルン、痛恨のPK失敗 崩せなかったアトレティコの堅守速攻

西部謙司

バイエルンが描いた勝ち抜けのシナリオ

バイエルンにアウェーゴールの差で勝利。アトレティコ・マドリーが2シーズンぶりにCL決勝に進出した 【Bongarts/Getty Images】

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の準決勝、アウェーの第1戦を0−1で落としたバイエルン・ミュンヘンは、ホームでの2−0が目標だった。アトレティコ・マドリー相手に3得点は難しい。ゼロに抑えたうえでの2ゴールが勝ち抜けのシナリオとなる。

 バイエルンの得点源はロベルト・レバンドフスキとトーマス・ミュラー。この2人に数多くのクロスボールを供給することが2得点への近道だ。第1戦では先発からミュラーが外れていたが、レバンドフスキとミュラーがボックス内でクロスボールを得点に変えるのがバイエルン本来の形である。

 2−0を目指すには、まず後方でのポゼッションを確実にすること。圧倒的にボールを支配して全体をコンパクトにまとめ、相手の攻撃機会を最少にする。そのうえでサイドアタックのルートを確保して波状攻撃を続ける。ジョゼップ・グアルディオラ監督にとってはルーティーンといえる作業だろう。

 ポゼッションに関しては就任1年目の売りだったダビド・アラバの「三点移動方式」を採用している。ジェローム・ボアテング、ハビ・マルティネスの間にアンカーのシャビ・アロンソが引いて3バックとし、アンカーの位置にはアルトゥーロ・ビダルが引く。同時に左サイドバック(SB)のアラバは、ビダルのポジションである左のインサイドハーフの位置へ進出する。アトレティコ・マドリーの前線からのプレスを外すと同時に、左ウイングであるフランク・リベリへのパスコースを開けるのが目的である。左SB、ボランチ、インサイドハーフと移動していくアラバに対して、相手のサイドハーフが対応するのでリベリへのパスコースを遮断する選手がいなくなるわけだ。リベリのドリブル突破、あるいはアラバとのコンビネーションでの突破を狙った。

 右サイドのアプローチは左とは異なる。右ウイングのドウグラス・コスタが左利きだからだ。コスタは中へ入り、空いたサイドのスペースに右SBのフィリップ・ラームを上げる。後半にキングスレイ・コマンが入ってからは、ラームのポジションは中央に寄った。これは左のアラバと同じで、ラームが中へ入ることで右ウイングであるコマンへのパスコースが開けるからだ。前半はリベリとラーム、後半途中からはリベリとコマンがクロスボールの主な供給元となった。

 アトレティコ・マドリーの2トップ(アントワーヌ・グリーズマンとフェルナンド・トーレス)に対してのディフェンスラインでの「3枚回し」、ウイングへのパスコース開け、クロスに対するレバンドフスキ、ミュラーの飛び込み。バイエルンのゲームプランは問題なく機能していた。

2つのフォーメーションを駆使したアトレティコ

アトレティコ・マドリーは2つのフォーメーションを駆使して応戦 【Bongarts/Getty Images】

 一方、アトレティコ・マドリーは前半の途中で4−4−2から4−1−4−1にフォーメーションを変え、さらに4−4−2に戻す。2回目の4−4−2ではコケとサウール・ニゲスの位置を左右入れ替えた。4−4−2と4−1−4−1の2つのフォーメーションを選手交代なしで行えるようになったのは今季の進化といえる。

 2トップを4−4の守備ブロックに近づけて、10人ブロックを作り上げたのはディエゴ・シメオネ監督になってからの特長である。世界的に4−2−3−1の1トップが支配的だったところに2トップが復活してきたのは、アトレティコ・マドリーの影響が大きい。今季はトーレス、ジャクソン・マルティネス(シーズン途中で広州恒大へ移籍)という本格派のセンターFW(CF)がいて、MFにもサウール、アウグスト・フェルナンデスが台頭したので、CFの守備負担の軽い4−1−4−1を手の内にいれたと考えられる。2つのフォーメーションを使うことで、国内リーグとCLでローテーションも使える。

 前半を1−0とバイエルンのリードで終えると、アトレティコ・マドリーはボランチのアウグスト・フェルナンデスに代えてヤニック・カラスコを投入。コケをボランチへ移動させてカラスコを左サイドに置き、グリーズマンを右サイドに下げて再び4−1−4−1に変化している。これでメンバー構成が少し攻撃的になった。前半のように守備一辺倒では“もたない”という判断だろう。1点取れればバイエルンは3ゴールが必要なのでガラリと状況を変えることもできる。結果的に、形勢逆転とはいかないまでも、前半のサンドバッグ状態よりもマシになった。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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