“最高のレギュラーシーズン”からの卒業 杉浦大介のNBAダイアリー ラプターズ編

杉浦大介

ファンが腰を上げない理由

デローザン(左)やラウリーというガードデュオを中心に結果を挙げてきたラプターズだが、その熱気はまだ街全体には浸透していない 【Getty Images】

「最近は好調でも人気が浸透しない理由は、端的に言って2つ。まずラプターズ戦の多くが、ケーブルTVのベーシック契約に含まれないチャンネルで放送されていること(=視聴に別料金がかかる)。もう1つは、過去2年のプレーオフで下位シードのチームに敗れてしまったこと。シーズン中に幾ら勝っても、多くの人がテレビ観戦するプレーオフで勝たなければ盛り上がらないからね」

 トロントのある地元紙記者のそんな説明通り、過去2年は地区連覇を飾りながら、プレーオフでは惨敗を喫したのは何よりも痛かったのだろう。

 特に第4シードで臨んだ昨季は、第1ラウンドでワシントン・ウィザーズにまさかのスイープ負け(4連敗)。短いチーム史に刻まれる屈辱的な惨敗で、一時的な盛り上がりの気配も綺麗に霧散してしまった。

 その直後であれば、今年のレギュラーシーズンで勝ち続けてもファンが腰を上げないのは仕方ない。逆に言えば、今のラプターズには、何よりもポストシーズンの実績が不可欠ということだ。

「イースタンではキャブズが絶対の本命とみられてきたが、コーチの交代、主力の不協和音など、不安要素が幾つも飛び出してきている。ガード陣の能力ではラプターズが上。やはりキャブズはレブロン・ジェームスの存在が大きいが、故障離脱中のデマーリー・キャロルが復帰してラプターズの守備の要になれば、キャブズ対ラプターズ戦はすごいシリーズになるかもしれない」

 元ESPNドットコムのクリス・シェリダン記者がそう語る通り、昨季のイースタン王者キャブズは今季は安定感に欠ける感がある。

 もちろんプレーオフに照準を合わせてくるだろうし、怪物レブロンが健在な限りは本命の座は揺るがない。ただ、2番手以降との差は事前に想定されたより小さく、実績あるマイアミ・ヒート、今が旬のラプターズに手を焼いても驚くべきではない。特に東のナンバー2の座を確立してきたラプターズとの激突は、見どころ満載の名勝負になる可能性も十分にありそうだ。

極めて重要な今年のポストシーズン

「NBAの中でラプターズの位置付けも大きく変わってきた。トロントにある1チームというだけでなく、強豪として認識されるようになった。プレーオフではまだ実績を残せていないけれど、毎年向上しているからね」

 ラウリーが指摘するそんな良い流れを保ち、先に進めるべく、16年のポストシーズンはラプターズにとって極めて重要な舞台になる。

 シーズン終了後、デローザンが契約オプトアプト(破棄)してFA(フリーエージェント)となる権利を持っていることも忘れるべきではない。残留は有力とみられているが、今年も結果が出せなければ、フロントが主力の解体を選んでも不思議はない。

 それらの背景を考えても、ケイシーHC、デローザン、ラウリーの3本柱にとって、今年のプレーオフはもう後には引けない大一番である。ここでレブロンとキャブズを苦しめ、トロントの魅力を世界に示せれば……。

「僕たちはプレーオフで力を証明しなければいけない。世界中が注目するステージで力を出せば、トロントに対する人々の見方を変えていくためのステップが踏める。すべてはプレーオフで何をするか次第なんだ」

 デローザンの思いがかない、過去2年は辛酸を舐めたラプターズの“3度目の正直”は実現するのか。北米有数の国際都市に魅力的なチームが生まれつつあることを、カナダ中のスポーツファンにアピールできるか。

“最高のレギュラーシーズン”だけではもう十分ではない。ここで充実したポストシーズンを過ごせば、その先に、カナダのバスケットボールのより明るい未来が見えてくるはずなのである。

2/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント