レブロンとオハイオアンが夢見る“悲願” 杉浦大介のNBAダイアリー キャブズ編

杉浦大介

キャブズと地元ファンの一体感

キャブズの本拠地クリーブランドの中心街で大きく掲げられているレブロンの巨大バナー 【杉浦大介】

「コービー・ブライアント、ケビン・デュラント、デリック・ローズとか、それぞれの地元で愛されているスター選手はNBAには多いんだろう。しかし、レブロン・ジェームスとキャブズはまさにクリーブランドそのものなんだ(LeBron James and the Cavs are Cleveland)」

 クリーブランド・キャバリアーズ対ニューヨーク・ニックス戦が行われた昨年12月23日(現地時間、以下同)のこと――。空港からアリーナに走るタクシーの中で、黒人男性の運転手は筆者にそう語った。

「いつかキャブズがファイナルを制し、パレードが開催されたら……その日はクリーブランドの街の歴史上でも最も素晴らしい日になるだろうね」

 多少の誇張はあるのだろうが、彼の言葉はそれほど大げさに感じられなかった。地元チームとファンの一体感は米スポーツの醍醐味(だいごみ)の1つだが、筆者の知る限り、クリーブランドほど、それが分かり易く感じられる街も少ないからだ。

 街中にはキャブズ関連のポスター、グッズが溢れ返っている。本拠地のクイックン・ローンズ・アリーナがダウンタウンにあることも手伝い、キャブズのゲームデーには周囲はお祭りの雰囲気に包まれる。アリーナからほど近い、ペイントメーカーのシャーウィン・ウィリアムズの本社ビルには、レブロンの巨大バナーが掲げられている。

 ナイキがスポンサーとなったこのバナーが記憶にある人は多いのではないか。10階建てのビルの高さに相当する大きさのレブロンの写真の前で、記念撮影するファンは後を絶たない。お世辞にも見どころ豊富と言えない田舎町で、この巨大バナーは最大級の呼び物と言ってもいい。

かつてないほど膨らんでいる“今年こそ”の期待

キャブズの大黒柱であり、地元選手でもあるレブロン(23番)は、「生まれ故郷に恩返しがしたい」と語る 【Getty Images】

 レブロンがチームに戻ってきて1年目の昨季は、レギュラーシーズンのホームゲーム全41戦がソールドアウト。全米屈指の熱気の中で、“リーグ有数のパワーハウス”と呼ばれるようになったキャブズの選手たちはプレーする。昨季はファイナルに進出し、今年も29勝11敗でイースタン・カンファレンスのトップを快走中(1月21日現在)。1970年のチーム創設以来、一度も優勝経験のないチームの周囲で、“今年こそ”の期待はかつてないほど膨らんでいるのである。

 キャブズの大黒柱であり、チームの鍵を握るのが31歳のレブロンであることは言うまでもない。オハイオ州アクロン出身の地元選手であり、高校時代から“選ばれし男”と呼ばれた天才児。2003年ドラフト全体1位でキャブズに入団しながら、FA権を得た10年にマイアミ・ヒートに移籍した際には、地元の人々を激しく落胆させた。

 しかし、ヒートで2度のファイナル制覇を果たすと、再びFAとなった14年夏に古巣への帰還を発表。“僕は故郷に帰る”と宣言したヒーローを、オハイオアン(オハイオに住む人々)はもろ手を挙げて迎え入れた。

「いつか生まれ故郷に恩返しがしたい。そう思っていた。なぜなら、オハイオは僕にとってバスケットボール以上に大切な場所だから。数年前には気づかなかったことに今は気づいたんだ。

 クリーブランドを離れたときの僕には使命があった。それはチャンピオンになること。僕はそれを2度達成することができた。マイアミはその味を知っているが、僕の故郷はもう長く味わえていない。目標は可能な限り多くの優勝を経験することだが、それをオハイオ州北東部にもたらすことが今の僕には何よりも大切なんだ」

 復帰時に公表したそんな手記を読むまでもなく、レブロンの故郷への思いの強さを示すエピソードは枚挙にいとまがない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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