監督の交代劇が少ないエールディビジ フィテッセのマース監督の行く末は!?

中田徹

アディショナルタイムのゴールで何とか競り勝つ

フィテッセの太田(左から3番目)は安定して左サイドバックとして出場し続けているが、左ウインガーが定まらない 【Getty Images】

 その焦りは選手起用にも表れる。試合ごとに先発メンバーやプレーするポジションが変わり、チーム全体が“ノッキング”を起こすのである。幸い、太田は出場停止の1試合をのぞき、安定して左SBとして出場し続けているが、相棒となるはずの左ウインガーが頻繁に入れ替わってコンビ形成に支障を来している。この日のローダJC戦では普段右ウインガーを務めるミロット・ラシツァが左へ回ってきたが、呼吸を合わせるのに太田も苦労していた。

「アイツが前に行くのか足元で受けたいのか全然分からなくって……。(ラシツァから)『最初フェイクを入れて、裏に抜け出してとか、ちょっといろいろやるから見ておいてくれ』と言われたんですが、それが分かりにくくて四苦八苦しました。試合中、ずっとコミュニケーションを取りながらやっていました」

 前半34分、イサヤ・ブラウンのスーパーゴールでフィテッセは先制したものの、後半14分にローダJCの2トップ、ライデル・プポンとマイク・ファン・ダウネンのコンビに崩されて失点し、アディショナルタイムに入って試合は1−1のまま。フィテッセとマース監督への重圧は増していったが、途中出場の中国人タレント、ユニン・チャンの貴重な初ゴールが決勝点となり、2−1で何とか競り勝った。

「監督がだいぶホッとしたと思います。試合前と違って、試合後は大分リラックスした表情をしてましたから。いやー、監督が一番ホッとしたんじゃないですか」

 オランダ語の新聞は読めないものの、太田は紙面の作りから、マース監督に相当なプレッシャーがかかっていたことを理解していた。

「俺は新聞とかを読んでも何も分からない。でも、この間の試合の後の新聞で、ペーター・ボスとロブ・マースの大きな写真が載っていた。『多分批判している内容だな』と思いました。監督の近くに新聞が置いあって、『あ、これ見せないでおこう』と思ってナチュラルに新聞を閉じました(笑)」

 これも太田なりのコミュニケーションだろう。

コミュニケーション能力の上がっている太田

 マース監督を救ったチャンは、早速地元メディアに囲まれ、流ちょうな英語で「ゴールを決めた直後、チームメートが『よくやった』と声をかけてくれた。その時、何を考えたかって? 何も考えなかった。ともかくこの瞬間を大事に感じようと思っていた」と答えていた。長身ストライカーのチャンは太田にとって格好のクロスのターゲットになる。

「もうちょっとチャンが早く出てきてくれたら、俺もクロスで終わることができる。アイツは結構狙ってくれているから、練習でも合うんですよ」。そう言ってから太田はため息をついた。

「今日も前半にイージー(イサヤ・ブラウン)にクロスを上げたら、(監督が)『上げんな』って超キレていた。イージーは足元でボールを欲しいんですよ。でも、監督は俺の後ろで『上げろ上げろ』と言うし」

 チェルシーから期限付き移籍してきたブラウンはまだ19歳。フィテッセはこうした若い選手が多い。

「みんな若いからうまくいかない時の文句の量がすごいけれど、調子に乗ればいいんですけどね。やっぱり今日も失点した時ぐらいから、ゲームの中の雰囲気がだいぶよくなかった。だから意識的に声を出すようにしました。『カモン、カモン! カモン・ボーイズ!!』って」

 そして、太田は少し目を輝かせながら「最近、練習以外でもコミュニケーションが取れるようになってきたんですよ。英語もちょっと上達してるかもしれないです」と言うのだ。

「最近、英語が(文法や発音が)合ってなくても喋ろうと思っている。最初からそういうスタンスでいましたけれど、もっともっと喋っていかないとダメだと思ったら、だいぶコミュニケーションが取れるようになりました」

 ローダ戦の出来がよくなかったことは太田本人も自覚している。しかし、フィジカル改善の成果は、当たり負けしない体となって試合の随所に表れている。次節は3位フェイエノールトとのホームゲーム。6位のフィテッセにとって大事な一戦となる。この試合には、太田の母と兄もアーネムへ駆け付ける予定だ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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