【佐々木クリスが聞く】後編 西地区優勝の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、真のリーダーへと成長した須田侑太郎

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昨シーズンの悔し涙から1年、地区優勝を決めた瞬間に須田侑太郎は喜びの涙を流した。名古屋D加入3シーズン目、仲間とともに多くの困難を乗り越えてチームを強くしてきた道のりがどんなものだったのか、B.LEAGUE公認アナリストの佐々木クリスがそのストーリーを聞いた。

「今までのキャリアの中でも、こんなチームはなかった」

──ショーン・デニス体制になって3シーズン目での西地区優勝となりました。まずは最終戦までもつれた地区優勝を勝ち取った瞬間の気持ちがどんなものだったのかを教えてください。

喜びと安堵感が入り混じったような感情ですね。僕個人よりも、ドルフィンズとしてB.LEAGUEで初めてのタイトルを獲得したことが大きかったです。僕はこれまで優勝争いを義務付けられたチームにいて、ドルフィンズとしてのカルチャー、アイデンティティ、歴史を作り、そんなトップチームの仲間入りをさせたいという目標を掲げてドルフィンズに来ました。でも1シーズン目、2シーズン目とポテンシャルを発揮できず、今回ようやく結果を出せて、これはただの地区優勝じゃない、今後ドルフィンズが発展していく上で大きな一歩だという思いが自分の中でこみ上げてきて、喜びと安堵感という感情になりました。

──そんなにシンプルに白黒がつく心境ではないと思ってはいたのですが、それを本人の言葉で語ってくださると非常に胸を打たれます。

今まで地区優勝は何度か経験しましたが、その中でも格別にうれしいです。(宇都宮)ブレックス時代のチャンピオンシップ優勝に匹敵する、生涯忘れることはないと言っても過言ではないぐらい、僕にとってはそういう意味合いの地区優勝でした。

──クラブとしてのカルチャーを作りたいという言葉がありました。倒されても何度でも立ち上がる、とにかく戦い続けるみたいな名古屋Dのメンタリティーをどう表現しますか?

今シーズンに限らず、本当に逆境が多かったんです。ケガ人を多く出したり、レイ・パークスジュニアはいましたがオール日本人で戦った経験もありますし、7人、8人で戦って結局上手くいかなくて負けたり。過去のシーズンも含めて、思い返すと逆境が多いんですけど、打ちのめされようともその時その時のベストを尽くして、時には自分たちが持っている以上の力が出せたこともあります。そうやって戦い続けたことが、今思い返せばすべて僕たちの強みになって、地区優勝のタイトルを取ることになりました。ショーンも僕も含めて完璧な人間ではないし、それでもみんなで助け合って、僕もキャプテンとして働きかけたり、他の選手もみんな自分の意見を言ったり、一人ひとりが自主的にチームを良くしようと動きました。僕の今までのキャリアの中でも、こんなチームはなかったと思うんです。何度も倒されましたが、その間に積み上げたものが気付かぬうちにカルチャーとして築き上がった。それはこれからも大切にしていきたいと思います。

「自由にやっているようで、ハマる時にはカチッとハマる」

──名古屋Dのバスケはペース&スペース、リード&リアクトで、そのダイナミックで自由なバスケのスタイルを、僕は先ほどデニスヘッドコーチに「イルカの群れのよう」と話したら喜んでもらえました。須田選手は自分たちのスタイルをどんな言葉で表現しますか?

攻撃回数も多いですし、誰もがファーストオプションで、見ていて楽しいバスケだと思うんです。トム・ホーバスのバスケにも似たものを感じていて、誰もがファーストオプションで、一つひとつのアクションごとに個々が判断して、少しでもチャンスがあれば狙っていく。エクスキューションというより「少しでも隙があれば」なんです。「イルカの群れのよう」みたいな上手い表現が言えればいいんですけど……(笑)。

──5匹のイルカが泳いでいて、たまにレイ・パークス選手がトランジションポストアップで一人で魚を取りに行ったり、と思ったらスコット・エサトン選手が水面にジャンプすると齋藤拓実がアリウープのパスを合わせたり。須田選手がハンドオフから3Pシュートを打ったり、「イルカの群れのよう」だと勝手に思ってしまいました。

その表現はすごく良いです。自由にやっているようで、ハマる時にはカチッとハマるような感覚ですよね。「イルカの群れのよう」ってのは僕たちのバスケにすごく当てはまるので、聞いていてうれしい気持ちになります。

──是非使ってください(笑)。日本代表のバスケが「誰もがファーストオプション」で、「隙があれば必ず打っていく」スタイルですよね。そのメンタリティーを代表合宿で植え付けられたことが、今シーズンの名古屋Dでの活躍に繋がったと思われますか?

本当にその通りで、今まで僕はシュートもドライブもディフェンスも何でもバランス良くできるのが優れた選手だと考えていました。それがトムさんのバスケをやるようになって、「君はシューターだよ」、「全体を広げるより3Pシュートで突き抜けろ」というイメージを持つようになって。シュートが入るか入らないかじゃなく、打たなかったらダメ。そのスタイルは僕にとっては挑戦でした。そもそも僕は自分がシューターという認識がなく、代表で気付かせてもらったんです。ドルフィンズでもやっていることは同じなので、それがそのまま繋がって突き抜けられたことが初めての平均2桁得点、20得点超えの試合を何度もやれた結果になりました。何か新しいものを習得したのではなく、そういうメンタリティーを持てるようになったことが、この結果を生んだと思っています。

「自分へのチャレンジをする上で最高の環境です」

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──デニスコーチは選手に自由を与え、プレー判断を選手に委ねます。須田選手はこのやり方をどう受け止めていますか?

自主性を大事にして、自由にやらせてもらっています。ショーンさんは選手を放り出して「生きて帰ってこい」みたいなんですけど(笑)、そんな中でプレーすることで、判断力とかプレーの引き出しがすごく増えた1年でした。ショーンさんのバスケの経験があることで、2月の代表合宿でもトムさんのバスケで「ここはこう動こう」みたいなひらめきがどんどん出て、自分の成長を感じました。普段からアグレッシブな判断を瞬間瞬間でやっているので、迷うことがないんですよね。それは僕だけじゃなくチームのみんなも、知らない間にそういう成長があって、それぞれの良さをどんどん出せるようになっています。

──これからチャンピオンシップを戦い抜くカギだったり、優勝のために成長しなきゃいけないと須田選手が感じているのはどんなところですか?

一番大事なのは「自分たちらしくあること」で、相手どうこうより自分たちが今シーズン、あるいは3シーズンで培ってきた自分たちのスタイルを突き通すことだと思います。相手のバスケに合わせて調整するよりも、相手を自分たちに合わせさせる。「自分たちらしくあること」を忘れず抜き抜けることが優勝の絶対条件だと思います。それぐらい積み上げてきた自信はあるので、チャンピオンシップでも毎試合成長していきたいですし、その先に優勝があると思います。

──キャプテンとしての須田選手はどんな姿を見せたいですか?

我慢の時間帯もあると思いますが、そういう時こそ「自分たちらしく」を貫く、それを一番に体現するのがキャプテンとしての仕事ですし、プレーで見せるのも、こういったところでの発言も、すべて背負ってやっていくつもりです。でも、特別何か変わったことをやるわけじゃなく、今までやったことをやりきるだけです。僕自身もキャプテンシーを含めて突き抜けるのがチャンピオンシップでのチャレンジになります。

──キャプテンとしてこのチームを引っ張る上で、大変なことは何でしたか?

このチームは全員が心が良くて、進むべき道もやるべきことも分かっている選手ばかりなんですけど、それをやり始める、引っ張り上げる人がいないイメージでした。僕は昨シーズン、ケガ人が多くて人数が足りずに崖っぷちに立たされた時が、本当の意味で「やらなきゃいけない」と思うきっかけになりました。今はみんなにその変化があって、こういうマインドになったからチームがこれだけ上手くいったと思いますし、本当に周囲に恵まれました。自分へのチャレンジをする上で最高の環境です。だからみんなには感謝しているし、その恩を返すためにも自分が先陣を切って、すべてを背負ってやっていくつもりです。

編集協力:鈴木健一郎

佐々木クリスプロフィール

【事務所提供】

ニューヨーク生まれ、東京育ち。青山学院大学在籍時に大学日本一を経験。bjリーグ時代の千葉ジェッツ、東京サンレーヴスでプロ選手として活動したのち、2013年よりNBAアナリストとしてNBAの中継解説をスタートさせる。2017年よりBリーグ公認アナリストとしてNHK、民放各局などでBリーグ中継の解説を務める傍ら子供達を指導する『えいごdeバスケ』を主宰。日本バスケットボール協会C級コーチライセンスを保有。著書に「Bリーグ超解説 リアルバスケ観戦がもっと楽しくなるTIPS50」「NBAバスケ超分析~語りたくなる50の新常識~」がある。
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