親からの監督批判をかわす方法は? スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(4)
監督に全権が任されているのが、サッカー界のルール
我が子可愛さは応援のパワーの方へ回してほしい。「招集外となったお子さんには、『もっと練習に励め』と激励してください」とお願いしているのだが 【木村浩嗣】
つまり、試合の度に6人が必ず招集外となる計算なのだが、間髪入れずにその6人の親のうち2人からメッセージが入った。「なぜうちの子が入ってないんだ?」「先週も外れたのだから、今週はうちの子の番じゃないか!」「うちの子を本当に試合に出す気があるのか!」と。対面では言えないことも、SNSでは気軽に書き込めるようだ。
こんな時のプロの常套(じょうとう)句、窮地に陥ったレアル・マドリー前監督のラファエル・ベニテスが連発していた「テクニカルな判断だ」という、木で鼻をくくったような答弁をしようかと一瞬、思った。選手登録にしても招集メンバーにしても先発メンバーにしても、監督に全権が任されているのが、プロからアマまで貫くこちらのサッカー界のルールである。
全権というのは本当の全権で、クラブ会長もスポーツディレクターも監督仲間も決して口を挟めない。例えば、社長も上司も同僚も口を出せない独占的な裁量権がいち社員に与えられることなど会社ではあり得ないが、監督の世界ではそれがルール。その意味では、監督はクラブという組織に属しながら独立した存在で、“チームが社員、監督が社長”と考えた方が実態に近いのかもしれない。
監督は一人ひとりが違って当然
「ローテーションはやりません。ベンチ入りや先発メンバー入りは本人が勝ち取るもので、私が順番にプレゼントするものではありません。だから、連続で招集されようと招集外になろうと関係がありません」
これに対して「子供のやることなんだからもっと大目に見てはどうか?」と返してきたから、こう答えた。
「練習と違って試合というのはコンペティションであり、競争です。30人の中からあなたたちの子供18人を選んだのは私であり、その時点ですでに競争だったのです。彼ら18人が12人のベンチ入りを争うのに、一定のレベルを要求されるのは当然です。『これは競争であり誰でもプレーできるわけではない』という考え方を貫くのが、選手登録外となった仲間への尊重というものです。彼らが熱心に練習しているのに、練習をきちんとしない子を『順番だから』と試合に出すわけにはいきません」
そして「あなたの子供は競争力があるから選ばれた。彼が招集メンバー入りすることを私も願っています」と付け加えた。そうしたら返って来たのは「Good!」の絵文字だけだった。子供がやることではある。だが、だからと言って、いい加減にはできない。
監督仲間には完全にローテーション、順番にまんべんなく試合に出す、という者もいるのだ。「これで親からは文句が出ない」と。もちろん、私が彼の方針に口を出すことはない。「監督は一人ひとりが一つの世界である」とこちらでは言われる。監督は一人ひとりが違って当然であり、その違いは完全に尊重される。世界の創造主は監督、その世界に住んでいるのは子供たち……。親は果たしてどこにいるのだろう?