「美しく勝利すべき」だが、まずは勝利 スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(2)

木村浩嗣

監督として憧れるのはラージョのパコ・ヘメス

監督として憧れているのは、ラージョ・バジェカーノのパコ・ヘメス(左)だ 【写真:ロイター/アフロ】

 監督として憧れているのは、ラージョ・バジェカーノのパコ・ヘメスだ。ジョゼップ・グアルディオラにも憧れるが、彼は超一流の選手に囲まれている。しかし、リーガ・エスパニョーラでも最小クラブの一つで指揮を執るパコ・ヘメスはそうではない。

 私の率いるサッカースクールのチームも、スペインサッカー連盟所属チームのセレクションに落とされた子たちや、単に放課後に運動をしたいという子たちで構成されている。だから、テクニシャンぞろいでもないのに良いサッカーをして、しかも勝つというパコ・ヘメスにより憧れ、親近感を抱くのだ。

 そのパコ・ヘメスの最近の言葉にこんなのがある。

「私は結果主義者ではない。もしそうなら、敗れた時にファンを喜ばせるものがなくなってしまうじゃないか」

「監督のクビは結果次第だ。だが勝つためにこそ、良いサッカーをしなければならない。これがなかなか理解してもらえないんだ」

 彼はプロだからファンを喜ばせなくてはならないが、私はプロじゃないから子供だけを喜ばせばいい。その違いはあるにしても、私はこれらの言葉を全面的に支持する。パコ・ヘメスは二兎を追っている。良いサッカーと結果と。そして、良いサッカーをすれば結果が出る、否、出るべきだという信念を持っている。

“結果主義者”ではない、物には順序がある

のどかなある土曜日、4、5歳の子供たちによる大会が開かれていた。ボールの方が大きいのでは、というような小さい子もいて、笑みが漏れた。この年代では勝たなくていい、楽しければいい 【木村浩嗣】

 一兎を追う者より二兎を追い、両方のウサギを捕まえる方が困難で、それを目指す者が立派なのに決まっている。一方で、私もスペインに住んでいるからヨハン・クライフの言葉、「美しく勝利せよ」にも共感する。クライフは美を語り、パコ・ヘメスは良さを語っている。ニュアンスは違うのだが、それはここでは置く。では、私は美しく勝利したいと思っているのか、という話をしよう。

 美しさと勝敗には、次の4つの組み合わせがある。
(1)美しく勝利する
(2)美しく負ける
(3)醜く勝利する
(4)醜く負ける

 これらのうち、いいとこ取りの(1)が最高で、悪いとこ取りの(4)が最低なのは、論を待たない。問題は(2)と(3)の優先順位だ。パコ・ヘメスの場合は(2)(3)の順だろう(あるいは彼なら“良いサッカーをしなければ勝てないのだから、(3)の選択肢は存在しない”と言うかもしれないが)。私の場合は(3)(2)の順である。つまり、美醜よりも勝利を優先する。

 これをもってして“結果主義者”と呼ばれるのは心外だ。パコ・ヘメスと同じく(1)を常に目指しているのだから。だが、物には順序がある、と思うのだ。まず、内容をある程度犠牲にしても勝てるチームを作る。それを達成した後、ステップアップとして、内容を伴った美しく勝利するチームを作る。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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