若きプロモーターの熱意が詰まる興行 ボクシングの魅力伝える「DANGAN」
興行数は競技人口の減少も影響
10年目で通算150回を突破した1月27日、28日の興行はC級トーナメントを中心としたオール4回戦だった。興行数、選手数が減少する中、DANGANは将来のために選手の育成にも力を入れる 【船橋真二郎】
「状況によっては断ることも当然あります。逆に勝つ可能性が10%と思えても勝負をかけることはある。そういう判断ができるような、チャンスと思える試合を組んでくれるのはジムとしてもありがたいこと」
マッチメークはあくまで興行の視点と選手を育てる視点の両輪が噛み合ってこそ。経験を積ませるのか、勝負をするのか、ジムとのコミュニケーションを何より大切にしていると古澤さんは強調する。
「大手のジムとは違って、うちのように興行を打てない小さなジムにとっては選手に試合の場を作ってくれるDANGANは必要な存在」
そう力を込めるのはドリームジムの三浦利美会長だ。DANGANが興行数を伸ばしてきた理由として、もうひとつにはシビアな現状もある。
冒頭に昨年の後楽園ホールの興行数を100と記したが、これはここ5年間で2番目に少ない数字。03年から05年の160前後をピークに興行は減少傾向にある。全体の興行数を見ても、04年の308がピークで近年は211から230の間にとどまる。試合に出場した選手数も、04年の2474人を頂点に、最近は08年にスタートした女子を合わせて、ようやく1500人台を維持している状況だ(数字はJBC調べ)。
少子化の影響もあってか、競技人口が減ってきているのも一因だが、厳しい経済状況下でスポンサーが離れ、興行から撤退するジムが増えてきているのも事実。その中で数多くの興行を開催できているのは、赤字の興行を黒字の興行でカバーしているから。収支をトータルで見られることもDANGANという形態のメリットで「これまでの(ジム主導の)興行モデルが限界にきているのではないでしょうか」という古澤さんの言葉には、興行を成り立たせる大変さを知っているからこその説得力がある。
古澤さんとボクシングの出会いは『エキサイトマッチ』
いずれはスポーツ業界に進む希望を持っていた古澤さんは慶応大学理工学部を卒業後、まずはビジネス経験を積むために一般企業に入社。新興の上場企業の新卒一期生としてバリバリ仕事をこなし、4年ほど勤め上げた。ボクシング業界に入ってきたのは11年夏。以前から中立のプロモーターとして活躍していた瀬端幸男さんが立ち上げたビータイトプロモーションの一員となり、主力興行だったDANGANを任されるようになるのは1年後の12年からだ。
「もともとボクシングは好きでしたし、競技として面白いことは分かっていたので、もっと多くの人に浸透させたいというのは根底にあります」
ボクシングとの出会いはWOWOWの『エキサイトマッチ』。プロモーター同士が注目のビッグマッチやライバル対決を次々と仕掛け、激しく競争し合う海外のボクシングが古澤さんの原点というのも興味深い。
次の段階は「常に後楽園ホールを満員」に
「出場してくれる選手も増えて、日本、東洋太平洋のタイトルマッチも頻繁にできるようになってきた。興行の質を高める仕組みはでき上がってきたので、今後はDANGANの存在を広く発信して、集客につなげたい」
伊藤と東上が実感しているのが、自分を応援するためにDANGANに足を運んでくれた人たちが、ボクシング自体を好きになってくれるケースは決して少なくないということ。DANGANを通じてファン層を広げたいという狙いに一定の効果が示されたことにもなるが、手がける興行が増えた分、時間的にも、資金的にも限られる中、いかに従来のボクシングファン以外に働きかけるか、試行錯誤しながら実践に移したいという。その上で古澤さんが目標にするのが後楽園ホールを常に満員にすることだ。
「満員のホールの空気は独特じゃないですか? みんながリングに集中し、一体になった空気感は誰にとってもたまらないと思うし、いろいろな人に体感してもらいたいんです」
満員の環境で行われる試合は選手を奮起させる。観客の心にも訴えかける。必然的に選手の成長にもつながっていく。将来的にはDANGANから世界への道筋も視野に入れていきたいと話すが、DANGANの基本は後楽園ホールにあると古澤さんは考える。今年でまだ32歳。ボクシングを底辺から支える若きプロモーターの熱意に期待したい。