赤信号を渡る国で自己責任について考える スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(3)
未成年者保護をうたうFIFAの規定
FIFAが未成年者の国際移籍を禁止する規定を設けているのは、彼らの保護のためである 【写真:アフロスポーツ】
日本人少年がバルセロナでプレーするという夢を奪う規定をFIFAが設けているのは、未成年者の保護のためである。生まれた国や親元から引き離すような人身売買まがいの取引(移籍)に子供を巻き込むべきではない、というわけだ。しかし、バルセロナにしてもレアル・マドリーにしてもアトレティコ・マドリーにしても、下部組織の子供たちはおそらく自国以上の教育環境と住環境の中で超一流のコーチからサッカーを学んでいるのである。未成年保護の名目で、そんな子供たちをより劣悪な環境が待っているかもしれない自国に送り返すのはおかしくないか、という声が出て来て当然だろう。
バルセロナもレアル・マドリーも未成年を保護こそすれ、保護しないなんて事実はない、と反論している。未成年保護を目的とする国際移籍の禁止規定のせいで、逆に、未成年が不利益をこうむる事態となっているなら、それは規定の方が間違っているのではないか、と。
さっきの赤信号の例で言うと、信号を守れというルールは歩行者保護が目的だから、歩行者に危険のない状態では無効、つまり赤信号でも渡っていい、という理屈だし、もう一つ例を挙げるなら、過度の残業から労働者を守るためのルール、一定時間以上の残業代は払わないという規定が、タダ残業を強いるための口実となっているとしたら、やはりそれはおかしなことだ。
子供たちは退団すればクラブの保護を失う
私が所属しているような町のクラブからプロの予備軍まで、次のシーズンまで残れるのは全体の8割ほどで、毎年2割の子供は入れ替わるのが普通。その2割の中に遠く海を渡って来た外国人が含まれていたらどうなるのか? 言葉もおぼつかず文化も違い、親戚やチームメート以外に友だちもいない異国に突然取り残される子供の面倒は誰が見るのだろう?
入団4、5年後に退団したとして、帰国すればカルチャーギャップに苦しむだろう彼らの将来の責任は誰が取るのだろう? 夢を見た本人の自己責任? 子供に責任能力があるわけがない(だからこそ、未成年なのだ)。両親の責任は免れない。だが、クラブだってその一端を負うべきだ。ルールはルールだから守らなくてはいけない場合がある。退団後の未成年をも保護するために、FIFAの国際移籍禁止規定は尊重されるべきなのだ。
自分のチームのことを書くスペースがなくなった。昨年から4連勝中、通算6勝3敗で2位に浮上した。負け犬根性から脱した子供たちは、すっかり勝者の顔になってきた。が、我の強さでは子供の比ではない一部の親たちが、ルールを無視するかのごとくヒエラルキーの差を軽々と乗り越えて、監督の仕事に口を出してきた。来月は、スペイン少年サッカーの最大の障害(失礼!)、親たちについて報告したい。