“伸びしろのある世界王者”田口良一 リスクある勝負で存在感高める1年に

船橋真二郎

風邪の影響で本調子とは程遠かった

風邪の影響でコンディションが万全ではなかったが、それも経験とさらなる成長を誓う 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 序盤から動きが重かった点について、田口は殺気立つくらいの相手の気迫にのまれたと説明したが、最大の要因はコンディションの問題と認めた。試合の1カ月前に風邪を発症し、ジムワークを再開して、またぶり返し、思うように練習できない期間が1週間以上続いた。22日の公開練習では、当初2回の予定だったスパーリングを渡辺均会長がその場で3回に延長した。理由を渡辺会長に聞くと「動けるときに少しでも多く動かして、コンディションを上げるため」だった。その後の石原雄太トレーナーとのミット打ちでは、途中で左足ふくらはぎをつりかけ、集まった報道陣をヒヤリとさせた。それも同じ目的で朝の走り込みを、直前としては多めにしたからだった。

 決して本調子とは言えなかったものの、悪い流れにずるずるはまり込まず、試合の中で展開を変えられたのはキャリアを重ねてきた証拠。今後、長く防衛を続けていく上でも、常に万全の状態で臨めるとは限らない。渡辺会長、石原トレーナーが口をそろえる「まだ伸びしろのある世界王者」は「本当にいい経験になった。次は、もっとコンディションをうまく持っていけるように。もっと精進します」とさらなる成長を誓った。

ライトフライに3人の世界王者

日本人世界王者が3人居並ぶライト・フライ級の中で、今年は存在感を高める戦いに臨む 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 この試合の2日前に八重樫東(大橋)がIBF王者となり、田口がWBA王座の防衛を果たしたことで、WBC王者の木村悠(帝拳)と合わせて、ライトフライ級は3団体を日本人王者が占めることになった。だが、日本王者時代の2013年8月、真の世界挑戦権を獲得するために、敢えて“怪物”井上尚弥(大橋)の挑戦を受け、世界初挑戦実現の前に世界ランカーとの追試験を渡辺会長に志願した田口には、もとより安易なチャレンジを良しとしない芯の強さがある。

 田口が昨年大みそかに王者になったときから、標的として常に気にしてきたのがWBA暫定王者のランディ・ペタルコリン(フィリピン)。“カミソリ”の異名を取り、評価も高い24歳の若き強打のサウスポーは危険な相手だが、リスクを懸けた勝負を乗り越えてこそ、自身をもうワンランク上に引き上げると信じている。いかにも大人しげな風貌、天然ぶりばかりが強調される語り口とはギャップのある強気なファイト、真っ直ぐな姿勢が田口の魅力。ペタルコリンとの対戦には渡辺会長も前向きで、前王者が握るオプション(興行権)を次の防衛戦でクリアすれば、ゴーサインを出す考えだ。

 同じ大みそかの名古屋・愛知県体育館で、逆転KO勝ちで初防衛に成功した“中京の怪物”WBOミニマム級王者の田中恒成(畑中)も階級を上げることを明言。ライトフライ級に日本の強豪選手が集まる中、田口にとっては名前を上げ、存在感を高める1年になる。

2/2ページ

著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント